「DX」という言葉だけが独り歩きし
個人と企業の間でねじれが発生している

「学び直ししづらい空気があり、『何のために学ぶのか』という理解が企業内で進んでいない」ことに加え、社会人が学ぶのに適切なプログラムが少ない、仮に仕事を離れて大学院に入り直したとしても修了後にそれを有益に活かせない、新たに学位を取得してもわかりやすいキャリアアップが実現しない、といった理由が挙げられると飯田氏。より産・官・学が連携し、学ぶことの実利を可視化していく、つまり、「最新の学習歴」がより重視される社会を実現していく必要があるという。

 これまで日本企業は、定期的に異動させるローテーションによって、社員に業務知識を身につけさせてきた。そのため、自らキャリアを描き、自主的に学んでスキルを高める自律型の人材が活躍できるような場を用意していなかったのだ。ジョブ型雇用など、自分のキャリアを自分で切り開く欧米諸国とは、キャリアデザインの考え方が違う点が大きな原因だと飯田氏は指摘する。

 徐々に学び直しの必要性は個人にも企業にも浸透しつつはある。しかし、こうした構造的な問題をはらむがゆえに、「個人が学びたいことと、企業が学んでほしいこととの間の、ねじれも発生しやすくなっている」という。「DX」という言葉だけが独り歩きし、経営層が焦っても、誰に何をどのくらい、どの程度まで学んでほしいのか、全体としてどのくらい育成を達成できたのかを明示できていない場合が多い。

 それなしで、ただ「リスキルしろ」とだけ言われても、個人はどのように学んで良いかわからない。リスキリングには、企業が学び直しを促進するだけでなく、「個人のキャリアと会社のパーパスとのすり合わせが不可欠」(飯田氏)なのだ。

 よく「will(実現したいこと)」「can(できること)」「must(人にやってほしいと求められること)」の3つが重なるところが、個人が自分の力を発揮しやすい領域だといわれている。企業が個人にしてほしい「must」があり、個人の「can」があっても、対話を重ねて多様な価値観を認めた上で、個人の「will」を尊重し、企業として目指したい目的をすり合わせ、個人に適切な動機づけを与え、納得してもらわなければ、リスキルは成功しない。

「対話ですり合わせができている企業は総じて従業員エンゲージメントが高く、企業と個人の関係が良好です。そのような企業は従業員から選ばれ続けることになります。一方で対話がなければ、ねじれたままです」(飯田氏)。

 では今、実際にどのようなスキルに注目が集まっているのか?