「A」→「A’」がスキルアップ
「A」→「A’+α」がリスキル

「スキルアップは、今持っているスキルを引き上げること。リスキリングは、今持っているスキルを磨き続けながら、+αの新しいスキルを身につけること。『A』から『A’』への変化がスキルアップだとすると、『A』から『A’+α』という変化がリスキリングです」(飯田氏)。

「Udemy」の日本事業責任者の飯田智紀氏「Udemy」日本事業責任者、飯田智紀氏 Photo by H.K

「リカレント」と「リスキリング」の違いは、その主体や主導が、個人なのか企業なのかによる。

 日本でリスキリングより前から広まっていた「リカレント(※循環・回帰の意)教育」という言葉は、「生涯学習」とも言い換えられ、個人を主体とし、人生を豊かにする学習行為を指すものだ。

 個人主体の「リカレント」に対し、企業主導であり、仕事において価値を出し続けるためのスキルや知識の習得、そのための学び直しが「リスキリング」だ。業務に際して、実践・実用的なものであり、特に現在ではデジタル関連のリスキリングのニーズが高まっている。

 リスキリングは、経営課題を解決するための企業の施策のひとつという側面もある。

 いわゆる、失われた20年とも30年ともいわれる長い日本経済の停滞、終身雇用や新卒総合職一括採用などの日本的な人事制度の行き詰まり、人口減による人手不足、DXやコロナ対応など、目まぐるしく変わる事業環境の変化のただ中にあって、人材育成は待ったなしの課題だ。

 ここに「学び直し」の概念が結びつき、「リスキリングは、企業主導という社会認知に変わってきた」というのが飯田氏の見立てだ。飯田氏は、「以前は、『リカレント(学び直し)』」と表記されることが多かったが、現在は『リスキリング(学び直し)』という表記、認識が主流になってきているという。

 ただし、企業主導といっても、企業が強制的に学ばせるのではなく、あくまで、「個人が自身のキャリアを切り開くために、必要な学習を自発的に行う」ことが前提になってくる。「海外では5年ほど前からリスキリングの必要性が言われていましたが、日本は新型コロナが感染拡大を始め、リモートワークに対処せざるを得なくなった2020〜2021年にかけて、一気に関心が高まりました。コロナ禍1年目で、デジタルリテラシーが不足していることに企業も個人も気づくことになったのです」と飯田氏。

 2022年3月にベネッセコーポレーションが実施したアンケート調査(※)によると、「あなたは直近1年以内に何かを学習しましたか」という設問に対して、「学習した」と答えた社会人は26%。労働人口を約7000万人とすれば、「学習者」の人口は推定で約1800万人だ。ただ一方で、74%は何ら学んでいないということでもある。

※設問「あなたは直近1年以内に何かを学習しましたか。※学生時代のことは除いてお答えください。趣味/スキルアップなどの目的や、書籍や講座受講などの学習手段は問いません」、リサーチ会社:マクロミル、サンプルサイズ:35,508

 残念なデータだが、OECD諸国の平均10.9%に対し2.4%と、日本はOECD諸国で、仕事を離れてもう一度学ぶ人数が、最も少ない国だ(参考:内閣府『平成30年度 年次経済財政報告』/高等教育機関を卒業後の25~64歳のうち、大学など学校教育体系に含まれる教育機関でのフルタイムの教育を受けている人の割合を集計)。

 それは、日本人が怠惰だからでも、学ぶ意欲がないからでもなく、雇用に関しての構造的な問題があるためだ。