日米首脳会談の4日前に
岸田首相と意見交換

 おそらくバイデン氏は今でも対話路線を大事にしたいとは考えている。しかし、米政権事情に詳しい筋によると、米国防総省がバイデン氏へ、中国やロシアを抑え込み、弱体化させる方針へと転換させようと、強く働きかけているようだ。バイデン氏は支持率が低いため、米国防総省の意見をむげにすることはできない。

 そのため、日米首脳会談前から、米国は日本の防衛力に関してかなり強い要求を突きつけるだろうと言われていた。日本政府の幹部も相当緊張しているようだった。

――実際、岸田首相はバイデン氏との会談後、日本の防衛力を抜本的に強化していく決意を表明しました。

 防衛力といっても、その中身が重要だ。当初、世界中の大方の予想は「ウクライナはロシアにかなうはずがない、ゼレンスキーは亡命し、キーウも陥落してしまうだろう」というものだった。しかしウクライナはこの予想に反し、ロシアに対して大健闘している。それを支えているのは、米国をはじめとするNATO(北大西洋条約機構)だ。

 米国はロシアのあらゆる動きを事前にキャッチしている。ロシア軍のリアルタイムな位置情報や通信傍受など、ロシア側の動きやどのように対処すべきかについて、そのための技術や情報をウクライナ側へ随時、提供している。サイバー空間での攻防も繰り広げられている。

 米国は軍隊こそ派遣していないが、むしろ軍隊による支援よりも、こうした支援が戦局を大きく左右するようになった。この戦争は「ロシア対ウクライナ」の戦争ではなく、「ロシア対NATO」の間接戦争ともいわれている。こうした現状を踏まえ、日本はどのような形で防衛力を強化するのか。このことが非常に重要だ。

田原総一朗田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年、滋賀県生まれ。1960年に早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年フリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「城戸又一賞」受賞。早稲田大学特命教授を歴任(2017年3月まで)、現在は「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』『激論!クロスファイア』の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。近著に『コミュニケーションは正直が9割』(クロスメディア・パブリッシング)、『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(冨山和彦氏との共著、KADOKAWA)など。 Photo by Teppei Hori

――田原さんは、日米首脳会談が行われる4日前に岸田首相と面会していますね。今回の日米首脳会談について何かお話されたのでしょうか。

 実は今回、日本の安全保障と日米首脳会談、おもにこの2つについて意見交換をしたいと思っていた。しかし、面会直前に識者から、どうやら米国の姿勢は対話路線から変わったようだという話を聞いたので、日米首脳会談に関しての話題を出すのをためらった。結局、その話題はやめることにして、岸田首相にその旨を伝えると、「わかりました」と言っていた。そのため、主に今後の日本の安全保障に焦点を絞って意見交換させていただいた。

――どのような内容だったのでしょうか。

 米国は世界の警察を担う力はもはやなくなってきている、日本はこれまでのような受け身ではなく、主体的に考えなければならない段階に来ているのではないか、政府はそのあたりどう考えているか、といったことだ。

――岸田首相はどのような反応でしたか。

 彼は「聞く耳」を持っているからね。うなずきながらじっくりと私の話を聞いていた。受け止めていたように思う。

 今回の日米首脳会談では、バイデン大統領は「中国が台湾へ軍事侵攻した場合、軍事戦略を辞さない」と答えた。ウクライナ戦争では軍隊を派遣しないと答えていたのとは、大きな違いだ。そうなると、台湾有事の時に日本はどうすべきか?これまでのようなあいまいな態度は通用しない。日本の決意が迫られることになる。