ヒエラルキー文化が根付いていると
経験者の「芸」でこなそうとしてしまう

松田氏Photo by Teppei Hori

松田 前々回の政治家の話にもつながりますね。70歳とか80歳になっても居続ける、影響力を持ち続ける。

安宅 全部、その人の「芸」でやってしまう我々の性質がある。システム化しない。

松田 それが結構、日本の問題かもしれないですね。

安宅 本当に問題だと思います。なぜかシステム化が苦手なんですよね。でも、先ほどのマクドナルドなり、マッキンゼーなり、システム化をしてきた会社にいた人は、同じ日本人でもシステム化して仕事をしているわけです。ですから、人間の能力的な問題ではなく、「設計する」という意識とスキルの部分が抜けている気がします。

松田 やはり文化的なものなのでしょうか。例えば、敬語というものがあり、1つでも年上であれば、その人にていねいな敬語を使って、頭を下げる。すると、従う意識が生まれてしまう。「敬う」というのはすごく良いことだと思うのですが、年齢の差でまずマウントを取られる。

 そのような風習の中で育つので、スタートラインから年上の人に負けている状態となる。「年長者に対して、なんだあの口の利き方は」と周囲からも、たしなめられてしまう。私、それがすごく嫌で、年下の人たちには絶対にマウントを取らないように気をつけているんです。

安宅 わかります。軍事教練の文化がいまだに残っている。今はコロナ禍であまり行きませんが、複数人で食事へ行くと、若い人がお酒をついだりしますよね。ああいうのはやめたほうがいい。つごうとしたら、私は、手でふたをしてしまいます(笑)。やめてくれ、ヒエラルキーというのは、私が持ち込んでいるのではなく、君たちが今、持ち込んでるんだぞと。○○部長とか、○○教授とか、本人を目の前にしてそういう呼び方をしている限り、この世からヒエラルキーは消えないよと。ヒエラルキー文化は本当によくない。

松田 私もタリーズ時代から従業員に「社長」ではなく、下の名前で呼んでもらっていますが、アメリカの大学や企業でも、上下関係をあまり気にしないというか、教授や上司に対して学生や年下の社員は、フランクに話していますよね。

安宅氏Photo by Teppei Hori

安宅 もちろん、敬意は払っていますが、呼ぶ時はファーストネームですよね。驚いたのは、イェール大学に通っていた時、大学のウェブサイトが超絶気にくわなかったので、イェールのプレジデントにメールを送ったんですよ。根本的にダメだと思って、結構長めの文で3つか4つ、具体的な提言をしたんです。そしたらすぐに、プレジデントオフィスから、ろう印で封された手紙が届いたんです。「君が伝えてくれたことは正しい。すでに指示はしておいたので、もう大丈夫だ」と。

松田 それはすごいですね。「若造が何を言っているんだ」とはならない。良い提案は良い提案として、年や身分関係なく、受け入れる。

安宅 1年後、本当に全部、反映されたんですよ。一学生の意見を、きちんと受け止め、しかも本当に実施してしまう。アメリカってすごいなと思いましたね。

松田 ヒエラルキー文化が根付いていると、何事も経験者の「芸」でこなそうとしてしまう。システム化が進まない。ヒエラルキー文化を本当になくすためには、やはり教育から変えないといけないのかもしれませんね。

 私は、アントレプレナーシップを学ぶ機会を、本当は小学生の時からやるべきだと思っています。大学生や、ましてや社会人になってからでは遅い気がするんですよね。必須科目までにしなくてもいいかもしれませんが、経営者という道も選択肢のひとつとしてあるんだよ、ということを知ってもらうためのベンチャー教育は、各校で実施すべきではないでしょうか。