一冊の「お金」の本が世界的に注目を集めている。『The Psychology of Money(サイコロジー・オブ・マネー)』だ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のコラムニストも務めた金融のプロが、ビジネス、投資、資産形成、経済的自立のために知っておくべき教訓を「人間心理」の側面から教える、これまでにない一冊である。世界43ヵ国で刊行され、世界的ベストセラーとなった本書には、「ここ数年で最高かつ、もっとも独創的なお金の本」と高評価が集まり、Amazon.comでもすでに1万件以上の評価が集まっている。本書の邦訳版『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』から、その一部を特別に公開する。

【人生に効く深い話】ブランドモノを身に着けている人の「恥ずかしい勘違い」とは? Photo: Adobe Stock

高級車に乗っている人はかっこいい?

 学生時代、高級ホテルのボーイのアルバイトをしていたときの醍醐味は、見たこともない高級車を運転できることだった。客はフェラーリやランボルギーニ、ロールスロイスなど、貴族が乗るような車でホテルに乗りつける。私はその車を、客の代わりに駐車場まで運転した。

 いつかこんな車に乗ってみたい―それが私の夢だった。高級車は、周りの人に「私は成功者だ。頭が良くて、金持ちで、趣味が良く、重要な人間だ。さあ、私のことを見てくれ――」というメッセージを発する格好の道具だ(と、当時の私は思っていた)。

 だが皮肉なことに、私は高級車に乗っている人には目もくれなかった。洒落た車を運転している人を見ても、「あの車を運転している人はかっこいいな」ではなく、「自分があの車に乗っていたら、みんなにかっこいいと思われるだろうな」と考えていたのだ。

 無意識であろうとなかろうと、人はこのように考えている。

ブランド品を買う人のパラドックス

 彼らは、車に見とれている人たちが、実はドライバーなど見てもいないことに気づかず、自分自身が称賛されると思い、フェラーリを買ったのではないだろうか。

 もちろん同じことは、豪邸に住んでいる人にも当てはまるだろう。宝石や高級ブランドの服もそうだ。

 これはパラドックスだ。人は、「私は他人に好かれ、称賛されるべき人間だ」というシグナルを発しようとし、富を求める。しかし、富を誇示するような高級品を苦労して身につけても、思ったほど他人から称賛されることはない。

「自分を良く見せたい」と
高級品を買ったことのある人へ贈る手紙

 私は息子が生まれたときに、将来の彼に宛てた手紙にこう書いたことがある。

未来の君は、高級車や高級時計、大きな家が欲しいと思っているかもしれない。でも、君が本当に求めているのは、他人からの尊敬と称賛だ。そして君は、高価なものを身につければそれが得られると思っている。だが、高級品を身につけても決して人から尊敬されたりはしない――特に、君が尊敬してもらいたい人からは。★

 私は、豊かさの追求を放棄すべきだと言いたいのではない。高級車に価値がないとも思わない。私自身、どちらも好きだ。

 だが、金に物を言わせて高級品を買っても、本人が思っているほど他人からの尊敬や称賛は得られない。これは、簡単には理解できない人生の機微である。

 尊敬や称賛が目的なら、その求め方には注意しよう。馬力の大きなスポーツカーを買うより、謙虚さや優しさ、共感があるほうが、多くの尊敬を集められるはずだ。

(本原稿は、モーガン・ハウセル著、児島修訳『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』からの抜粋です)

モーガン・ハウセル

ベンチャーキャピタル「コラボレーティブ・ファンド社」のパートナー。投資アドバイスメディア「モトリーフル」、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の元コラムニスト。
米国ビジネス編集者・ライター協会Best in Business賞を2度受賞、ニューヨーク・タイムズ紙Sidney賞受賞。妻、2人の子どもとシアトルに在住。