TPPとRCEP、IPEFの違いとは?
中国主導のRCEPは15カ国が参加

 バイデン政権が立ち上げを表明したIPEFは、サプライチェーンや貿易などの側面から米国とインド太平洋地域各国の経済的関係を強化するビジョンと考えるとわかりやすい。その目的は、米国を中心に多国間の連携を強化し、中国に対抗することにある。

 同じ考えを持った多国間の取り組みにTPPとRCEPがあった。ただし、IPEFとTPPおよびRCEPには大きな違いがある。最大のポイントは、TPPとRCEPはレベルの差はあれ、多国間で関税の引き下げなどを進めて「自由貿易の促進」を目指す、大型の経済連携協定(EPA)であることだ。一方、IPEFはそこまで踏み込んでいない。

 当初、TPPは米オバマ政権が主導した経済面からの対中包囲網だった。TPPでは最終的に工業製品の99.9%の関税が撤廃される予定だ。さらに、労働や競争などのルールも各国間で統一される。

 しかし、トランプ前大統領がTPPからの離脱を表明したことで、TPPイコール米国を基軸とした対中包囲網ではなくなった。さらに、2021年9月16日に中国がTPP加入を正式に申請した。中間選挙を控えたバイデン大統領は、自国内の雇用を最優先する必要がある。米国がTPP再加入を表明する可能性は事実上ゼロだ。TPPに中国が与える影響力は強くなっている。

 RCEPは事実上、中国が交渉の妥結を主導した。20年11月、15カ国がRCEP協定に署名した。中国は、米国がTPPから離脱し経済面での対中包囲網が雲散霧消したタイミングで署名を成立させることによって、インド太平洋地域での影響力拡大を目指す“橋頭堡”(きょうとうほ)を築いた。中国の消費市場にアクセスするために、TPPを上回る15カ国がRCEPに参加し、工業製品を中心に91%の品目で関税は段階的に撤廃される。

 このように米国を軸とした対中包囲網がなくなる中で、インド太平洋地域における米国の存在感が低下し、中国の影響力が強くなる展開に、危機感を強める国や地域は増えた。その一例として、21年9月22日、台湾がTPP加入を申請した。