高まる台湾海峡の緊迫化
中国から逃避する資本も急増

 時間の経過とともに、インド太平洋地域での覇権を巡る米国と中国の対立は先鋭化している。軽視できないのが、中国が台湾周辺の海域と空域において軍事訓練を繰り返していることだ。

 中国海軍は空母遼寧を動員して艦載機の発着訓練を繰り返している。さらに、近く新型の空母が公開され、中国の空母打撃力は一段と高まるとの見方もある。それによって、台湾海峡の緊迫感は一段と高まらざるを得ない。

 アップルやエヌビディア、インテルといったIT先端企業は、世界最大のファウンドリー(半導体の受託製造企業)である台湾積体電路製造(TSMC)に最先端のチップ製造を依存している。軍事用チップの調達においても、米国にとってTSMCは欠かせない。

 台湾有事のリスクが高まることは、米国の政治・経済、安全保障に関わる問題だ。加えて、ウクライナ危機の発生をきっかけに、中国から逃避する資本が急増し始めた。資本が向かう先の一つがインドである。

 台湾有事のリスクを警戒する企業経営者や主要投資家が増え、ゼロコロナ政策によって世界の供給制約が一段と深刻化した。今後、ゼロコロナ政策が長期化し、家電や自動車などの生産がいっそう停滞するリスクが高まっている。そうした負の影響を避けるために、米国や韓国などのIT先端企業などが急速にインドでの事業運営体制を強化している。

 また、世界経済の供給地としての役割に期待が高まっているASEAN地域でも、中国の影響力は拡大している。4月にIMF(国際通貨基金)が公表した世界経済見通しによると、21年の世界経済は6.1%成長するものの、22年と23年の成長率予想はともに3.6%程度になるという。

 ウクライナ危機によって世界経済が「脱グローバル化」し、経済運営の効率性が低下するため成長が鈍化する国が増える。そうした中でもASEAN地域の経済は、右肩上がりの成長パスが予想されている。コストを抑えて車載用半導体やその他の部品、石油化学品、食用油、鉱山資源などの調達を円滑に進め、米国の生産活動を盛り上げ、雇用を生み出したいバイデン政権は、インド太平洋地域の国々との関係強化をこれまで以上に急がなければならないというわけだ。