日本もインド太平洋地域の各国に
経済面から関係強化を急ぐべき

 そうした事情が、IPEF立ち上げにつながった。また、バイデン大統領がわが国を訪れた日程は、IPEF立ち上げを表明し、インド太平洋地域の国々の賛同を取り付けるために決定的に重要なタイミングだった。

 まず、5月に入りインド太平洋地域の国では政権交代が起きた。5月9日のフィリピン大統領選挙では、外交面で中国との融和を重視するとされるマルコス氏が当選した。5月21日のオーストラリア総選挙では、自由党と国民党の保守連合から労働党への政権交代が起きた。

 次に、中国が南太平洋地域への影響力をさらに強めようとした。5月26日から10日間、中国の王毅外相が、ソロモン諸島やキリバス、サモア、フィジーなどの南太平洋の島しょ国を訪問。IPEFの立ち上げ表明後、5月26日にフィジーがIPEF参加を表明したが、30日に開かれた中国と太平洋島しょ部10カ国の外相会合では、中国が、貿易と安全保障に関する声明に合意を取り付けられなかった。

 IPEF創設の表明は、中国の影響力拡大を食い止める一定の役割を果たしつつある。ウクライナ危機は長期化し、欧州各国はロシア以外の国・地域からエネルギー資源などの調達を急いでいる。企業はコストプッシュ圧力に直面し、世界経済の成長率低下と物価の上昇・高止まりが鮮明化するだろう。世界の供給地としてのインドやASEAN各国の重要性はさらに高まるはずだ。

 そのダイナミズムを取り込むために、米国や欧州各国は艦船を派遣するなどしてインド太平洋地域への関与を強めなければならないとの考えを強めるはずだ。経済面では実力のある企業が海外直接投資をさらに積み増すだろう。

 そうした状況下、わが国はインド太平洋地域の各国に、脱炭素対応のインフラ整備支援や各種工業製品の製造技術の供与などを行い、経済面から関係強化を急がなければならない。こうした取り組みは民間任せにするのではなく、政府は国内企業の新しい取り組みをしっかりと支援し、インド太平洋地域への進出をより強力に後押しすべきだ。