コロナ禍でピンチを迎えたはずの三井不動産は一転、2023年3月期決算で過去最高益を予想する。V字回復の立役者は、バランスシートの「販売用不動産」が示す「仕込み力」だ。『決算書100本ノック!2022夏』(全21回)の#20では、かつて低評価だった大量在庫が高評価に転じた理由を解き明かす。(ダイヤモンド編集部 大根田康介)
貯め込んだ「販売用不動産」
かつてはネガティブな見方も
あるデベロッパー関係者は、三井不動産の2023年3月期予想に「野心的な数字だ」と驚嘆する。コロナ禍のダメージを負ってもなお、過去最高益を予想しているからだ。
その立役者となるのは物件売却、つまり販売用不動産をしこたまため込んできた同社の「仕込み力」である。
バランスシートの販売用不動産に着目すると、コロナ禍で物件売却を進めてきたにもかかわらず、19年3月期の1兆6305億円から22年3月期には2兆0517億円まで増えている。
販売用不動産の多さは、今でこそ資材高騰、土地不足の中で物件が仕込めない、仕込んでも原価が高過ぎるという外部環境の激変から「仕込み力」と評価できるようになったが、リーマンショック直後は同社の業績を悪くしている要因との評価がなされていた。
三菱地所や住友不動産と比べて棚卸し資産回転率が低いため、販売不振で商品が売れ残りやすく、その結果、利益率を下げてでも市場に在庫を放出しているというネガティブな見方をされていたからだ。時代の流れとは皮肉なものだ。
次ページでは、かつて低評価だった大量在庫が、コロナ禍で痛手を負った収益力を回復させることにつながった理由について解き明かしていく。