ファクト3:最低年収近辺の若年労働者世帯の
5人に1人は正社員

 ここまでの記事を読まれて、「正社員の仕事が増えているなら、最低賃金の問題は社会全体から見れば大きな問題ではなくなっているのではないか?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。

 しかし、実は結論は逆です。最低年収近辺で働く人は減っているのではなく、むしろ増えているのです。

 そもそも、最低賃金近辺で働く人の数が政府の統計ですぐに出てこないということ自体に問題があるのですが、この問題に詳しい都留文科大の後藤道夫名誉教授の試算によれば、2020年に最低賃金の1.1倍以内で働いている人の割合は14.2%で、2009年の7.5%から倍近くまで増加しています。最低賃金から1.2倍以内に範囲を広げるとその割合は23.7%と全従業員の4分の1近くに達します。

 ただ、最低賃金に近い労働者はアルバイト・パートが多いことが知られていて、かつ女性のパートの多くが家計を助けるために年間103万円の壁を意識しながら働いていることもよく知られているファクトです。したがって、最低賃金を貧困の問題として捉えるならば、世帯主の年収を調べる必要があります。

 では、世帯主が最低賃金近辺という比率はどれくらいなのでしょうか? これも統計を加工して分析しないと出てこないのが難点なのですが、せっかくなので分析してみました。

 最低賃金930円で週40時間、年間2000時間フルタイムで働いた場合に年収は186万円になります(注:東京都や神奈川県では最低賃金が1000円を超えているので、フルタイムで働くと年収は200万円を超える)。では、世帯主の年収が200万円未満の世帯はどれくらいの比率なのでしょうか?

 2019年に発表された独立行政法人労働政策研究・研修機構の「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状」というリポートの付属集計表から独自に数字を拾ってみると、次のようなことがわかります。25歳から49歳までのいわゆる若年層の世帯のうち、世帯主の年収が200万円未満の世帯は全体のちょうど10%です。

 それで、今度はその世帯主年収が200万円未満の世帯主の働き方を集計すると、22%が正社員なのです。わかりやすく繰り返すと、「若い世帯の約1割が最低賃金レベルの年収で、その中の2割は正社員なのにそのような暮らしをしている」ということです。

 最低賃金レベルの世帯は数としては男性世帯主と女性世帯主がちょうど半々ぐらいなのですが、男性世帯主の場合は正社員が28%、つまり若い男性のうち最低賃金レベルの生活をしている人の約3割が正社員ということです。

 この「最低賃金レベル」の範囲を、世帯主年収が250万円未満までに広げると全世帯の17%で、その中での正社員比率は38%まで上がります。数字を切り上げてしまうことにはなりますが、約2割が最低賃金レベルで、そのうち約4割が正社員です。ここからわかることはワーキングプアの問題は非正規だけの問題ではなく、今では正社員の問題へと変質し始めているのです。