一方、左派野党は、こうした自民党の政策との違いを打ち出せずにいる。

 左派野党が、弱者救済のためにさらなる財政出動を求めても、岸田政権は待ってましたとばかりに「野党の皆さんの要望でもあるので」と、さらにバラマキを拡大してしまう。左派野党は、自民党の「補完勢力」にすぎない存在となってしまった(第290回)。参院選での左派野党の惨敗は必然だったといえる。

 要するに、参院選で自民党が勝利した要因は、「安倍元首相のレガシー」といえる「安全保障政策の現実化」と国内政策における「自民党の左傾化」を、岸田首相がさらに推進したことにある。これにより、左派野党が存在意義を失い、壊滅的な打撃を負ってしまったのだ。

参院選後の政局はどうなる?
与野党の行く末とは

 ここからは、参院選後の政治の流れを予測していきたい。

 まず自民党は、「反撃能力の保有」や「防衛費をGDP比2%に増額」という、安全保障に関する公約の実現に向けて動くことになる。

 憲法改正についても、改憲勢力が衆参両院で3分の2以上の議席を確保したことで、2024年の改憲発議、2025年の国民投票実施によって改憲を実現するだろう。

 だがここで、改憲に積極的な日本維新の会と、安全保障・改憲の推進に消極的で「自民党の歯止め役」「平和の党」を自称する公明党が、自民党を間に挟んで激しい駆け引きを展開するだろう。

 次に国内政策についてだが、岸田政権はまず、物価高への対応に追われることになる。日銀の量的緩和政策は少なくとも年末まで継続され、補正予算・予備費を使った補助金などの財政出動は続きそうだ。

 ここで懸念されるのは、自民党が財政出動などの「左傾化政策」をさらに推進することで、左派野党の存在感が今以上に薄れることだ。今後は、立憲民主党の「社民党化」「泡沫(ほうまつ)政党化」という悲惨な事態が起こる可能性も否定できない。

 この状況は、日本維新の会にとっては好機になるかもしれない。だが、維新の政策が「90年代の改革」の域を出ない「古さ」を感じさせることが気になる。

 日本維新の会が全国政党として存在感を出すには、自民党とは異なる、地方主権を軸とした「国家像」を打ち出すことが必要だろう。IT化、デジタル化、ダイバーシティーへの対応も必須となる。

 このように、自民党の「左傾化」が加速しそうな今後の政局を読み解くには、「保守(右派)VS.リベラル(左派)」の対立という従来の常識を捨てることだ。

 新しい時代の対立軸は「弱者救済の与党」VS.「新しい時代を創る改革派」となる。自民党政策の問題点である「Too Little(少なすぎる)」「Too Late(遅すぎる)」「Too Old(古すぎる)」部分を批判する勢力こそが、これからの野党だといえる(第305回)。

 また今後は、安倍元首相の突然の死去による、自民党内のパワーバランスの変化も要注目ポイントとなる(第286回)。

 実は参院選前には、岸田首相と安倍元首相の意見が合わない場面もあった。安倍首相が亡くなった今、保守派をまとめるリーダーが不在となり、バラバラに好きなことを発言し、短期的には政局が混乱する可能性がある。

 だが長期的には、次第にその混乱は収まっていくだろう。混乱収束のキーマンとなるのは、次に挙げる二人の人物である。