田原総一朗が見た参院選、自民党内で始まるのは「黄金の3年」か?群雄割拠か?自民党最大派閥・安倍派の行方は? Photo by Teppei Hori

安倍晋三元首相が銃撃され、死去するという衝撃的な事件の2日後、7月10日に投票が行われた第26回参議院選挙。自民党は改選定数の過半数の議席を単独で獲得し、大勝した。今回の参院選をジャーナリスト・田原総一朗氏はどう見るか。 自民党「一強」はこれからも続くのか? 野党はなぜ弱いのか? 憲法改正の動きは? 自民党最大派閥・安倍派は今度どうなるのか?――。田原氏に見解を聞いた。(聞き手・構成/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)

田原総一朗田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年、滋賀県生まれ。1960年に早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年フリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「城戸又一賞」受賞。早稲田大学特命教授を歴任(2017年3月まで)、現在は「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』『激論!クロスファイア』の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。著書に『コミュニケーションは正直が9割』(クロスメディア・パブリッシング)、『自民党政権はいつまで続くのか』(河出書房新社)、『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(冨山和彦氏との共著、KADOKAWA)など多数。 Photo by Teppei Hori

選挙後に安倍元首相と
じっくりと意見交換をしたかった

――7月8日、参院選の街頭演説中だった安倍晋三元首相が銃撃され、心肺停止状態で救急搬送。その後、死亡が確認されました。日本中に衝撃が走るとともに、多くの海外メディアもトップニュースとして報じました。

 驚くべきことが起こった。戦前には、原敬首相や浜口雄幸首相、犬養毅首相と、現職の首相が襲撃されて命を落とすことがあったが、この時代に、首相経験者が殺害される事件が起こるとは、衝撃だ。

 犯人の動機は政治的な思想信条によるものではなく、宗教絡みだという。いずれにせよこのようなテロ行為はとんでもないことだ。これほど近くまで犯人を接近させたことは、やはり警備上に問題があった点は否めない。

――田原さんは、安倍元首相とどのくらい会われたことがあったのですか?

 安倍さんが首相になる前、特に小泉(純一郎)内閣の頃は、かなり頻繁に会う機会があった。首相に就任してからは、2カ月に一度くらいのペースだろうか。よく政策について意見交換をした。退陣後はあまりそうした機会がなくなり、共通の会合で同席した際にあいさつしたくらいだろうか。

 いよいよ安全保障が重要になってくるので、今回の選挙が終わった後、久しぶりにじっくりと意見交換をしたいと思っていた。その矢先にこのような事態が起き、かなわなくなってしまって残念でならない。

――安倍元首相が日本の憲政史上、もっとも長く首相を務めることができた理由はどこにあると思いますか? また、田原さんはこれまで数多くの首相に会っていますが、首相を務める人物には何か共通点はありますか?

 安倍政権が7年8カ月に渡る長期政権を築くことができた最大の理由は、安倍さんの外交手腕だろう。2006年の首相就任直後に中国を訪問し、胡錦濤(こきんとう)国家主席と会談。小泉内閣時代に冷え込んだ日中関係を回復させた。米国のトランプ前大統領とも本音で話し合える仲だったし、ロシアのプーチン大統領とも良好な関係を築いた。

 安倍さんも歴代の首相もそうだけど、総理大臣になるような人間は、私利私欲なんてないんですよ。何より考えているのは、自身の政党をどう維持し、日本をどう守るか。そのことに命をささげている。

 先週の土曜日に、ある会合で、首相経験者と今回の事件について話す機会があった。彼いわく、首相として政治信条を掲げる以上、常に(もしもの事態を)覚悟していると。自分だけの体ではないので実際は付けないわけにはいかないのだけれど、本当はSPも付けたくはない。当然、命をかけて毎日を過ごしていると。こう言っていたのが印象的だった。

 とはいえ、まだまだ安倍さんもやるべきことがあったはずだ。それだけに悔やまれる。

――7月10日に投票が行われた第26回参議院選挙では、自民党は63議席を獲得。改選定数124議席の過半数を単独で獲得と大勝でした。自民党は公示前111議席から119議席となった一方で、野党第1党の立憲民主党は、45議席から38議席へと現有議席を下回りました。田原さんはこの結果をどうお考えですか?

 とにかく野党が弱すぎる。安全保障についてもこれといった政策がない。自民党を批判していれば票が入るから、本気で政権を奪取する気がないのだ。