「スタートの天才」が才能を発揮すると失格に?
ルールを変えなければ悲劇は繰り返される

「ヤマ勘や予測でスタートしてはいけない」ならば、足が離れたタイミングを基準にするのでなく、音を聴く前に予測して体を動かし始めたかどうか、全身の動きでチェックする方法もあるのではないだろうか。

 現実的にアスリートの脳内を推測するなら、全ての選手が100%受動的に、ピストルが鳴るのを待っているはずがない。いつ鳴るか、内面で予測し、鳴ると同時に飛び出す準備はどの選手もしているはずだ。それさえも「不正だ」と断じるのだろうか。

 常人になし得ない特別なパフォーマンスを体現したアスリートが賞賛される、それが世界選手権やオリンピックの舞台だ。ところが、「スタートの天才」がその才能を発揮すると失格になる、そんなばかげたルールがあっていいはずがない。このルールを改訂しなければ、悲劇はまた繰り返される。

 ところで、傷心のアレンは、アメリカンフットボールNFLのフィラデルフィア・イーグルスのワイドレシーバーでもある。その快足が買われての契約だ。今回の世界陸上の後すぐ、7月最終週からイーグルスのトレーニング・キャンプに参加する予定だという。

 27歳のアレンがフットボールのフィールドに立つのは大学以来6年ぶりだから、NFLでの活躍の道は平たんでないかもしれない。だが、快足に加えて「世界一の反応速度」を持つアレンが、劇的なパス・レシーブを見せてくれる姿を期待したくなる。

(作家・スポーツライター 小林信也)