壁を超えたら人生で一番幸せな20年が待っていると説く『80歳の壁』が話題になっている今、ぜひ参考にしたいのが、元会社員で『島耕作』シリーズや『黄昏流星群』など数々のヒット作で悲喜こもごもの人生模様を描いてきた漫画家・弘兼憲史氏の著書『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)だ。弘兼氏のさまざまな経験・知見をもとに、死ぬまで上機嫌に人生を謳歌するコツを説いている。
現役世代も、いずれ訪れる70代、80代を見据えて生きることは有益だ。コロナ禍で「いつ死んでもおかしくない」という状況を目の当たりにして、どのように「今を生きる」かは、世代を問わず、誰にとっても大事な課題なのだ。人生には悩みもあれば、不満もあるが、それでも人生を楽しむには“考え方のコツ”が要る。本書には、そのヒントが満載だ。
※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』より一部を抜粋・編集したものです。

【漫画家・弘兼憲史が教える】<br />「70代になって地域に馴染むのは至難の業」と断言するワケ作:弘兼憲史 「その日まで、いつもニコニコ、従わず」

人生の締めくくり方

人生の最後は生まれ故郷に帰り、先祖代々の墓に入る。都市部へ移住した人にとっては、これも一つの人生の締めくくり方です。

両親が亡くなって空き家になった実家をリフォームして住む。あるいは、同じような理由で空き家になっている家を借りれば、住処はとりあえず確保できます。

家屋が多少古くても、自分の余命を考えれば「まあ大丈夫か」となるかもしれません。都会に比べれば賃料も物価も安いので、年金生活者の暮らしとしては理にかなっています。

年齢を重ねると思うこと

人間は年を取ると、昔が懐かしく感じられます。故郷の自然の風景は、記憶の中で美化されがちです。

「あんなふうにきれいな景色の中で、人間らしい暮らしがしたい」
「人生の最後くらいは、ゆったりした環境で静かに生きたい」

そんな気持ちが抑えがたくなってきます。まあ、理解できないではありません。ただ、現実を知らずに田舎暮らしを理想とするのは考え物です。地方には、よそ者に対して排他的な傾向があったりします。

田舎暮らしの現実

都会から移住してきた人が仲間はずれにされる、嫌がらせを受けるケースなどはよく聞く話です。

例えば、道ですれ違ったとき、こちらが挨拶しても無視されるなどというのは、まだかわいいもの。ゴミ収集所の利用が許されない、逆に自宅の庭にゴミを投棄される。自治会への加入を拒否される。病院に行くと、いつの間にか病名まで近所に知れ渡っている。息子夫婦が帰省しただけで、あることないこと噂話をされる。

このようなプライバシーの侵害も、ある程度は覚悟しなければなりません。

70代からの田舎暮らしの難しさ

アウェーな状況を打開しようと思ったら、相当な時間と労力を強いられることにもなりかねません。夏には率先して草むしりをして、冬場は公道の雪かきをするなど、コツコツと地域に奉仕し続け、ようやく受け入れてもらえるのが実情だと思ったほうがいいでしょう。

地域の足場作りはある意味、体力勝負でもあります。地道に信頼関係を作ろうと思ったら、相当な時間もかかります。つまり、70代になってから地域に馴染もうとするのは至難の業なのです。

僕自身は、前述したように故郷の墓も引き取ってしまいました。田舎暮らしへの憧れもありません。東京で暮らし、このまま人生を終えていくのが、ほぼ確定しています。

故郷は記憶にあるだけで十分

なんといっても都会は便利で刺激的です。映画館も文化施設もたくさんあります。魅力的なイベントも開催されていますし、美味しい飲食店もあふれています。病気になっても大きな病院が近くにあるなど、医療体制も充実していますし、交通インフラも発達しています。

長年住み続けて慣れ親しんだ便利な生活環境を今さら手放したくはありません。

都会は自然環境に恵まれているとはいえないものの、それでも東京でいえば、明治神宮の森や白金台の国立科学博物館附属自然教育園など、豊かな自然を感じさせるところはあります。自然に触れたければ、都心でもそうした場所を散策するという選択肢があるのです。

僕は、今さら故郷に近づかなくてもいいと思っています。故郷は記憶にあるだけで十分です。

※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。ぜひチェックしてみてください!