シンガポール進出の経緯

 ドンキはどのような経緯からシンガポール進出を決めたのだろうか。

 PPIHでシンガポールの事業を統括する町田悟史氏によると「もともと(同国に)出店する気はなかった」とのことだ。創業者の安田隆夫氏が2015年にシンガポールに移住する際に、現地の日本食品の高さに驚いたことが全ての始まりだったという。「これは何事か、ということで商売の火がついてしまってですね」と町田氏。

「逆に言うと、『なんでこんなに高いんだ』っていうのが正直な感想で、おそらくそこには価格の統一性みたいなのがあって。『ラクして』じゃないんでしょうけどね。(シンガポールは日系リテールにとって)売価が高くても売れるというような市場だったのかもしれないです」

 安さの秘けつについて聞くと、輸送面でのコスト減が大きいそうだ。通常のルートであれば、青果物の輸送は新鮮度を保つために航空便を使うのが定石だが、ドンキでは大半を費用のより安い船で輸送している。「これから先は企業秘密で、ちょっと言えないです。簡単に言うと鮮度を保ちながら船でも持ってこられるという手法を取りました」。

2030年までに、海外売り上げ1兆円を目指す

 かつては、シンガポールだけでなく、東南アジアの各地に日系デパートやスーパーが多数出店していたが、縮小・撤退した例が多い。大きな原因は、商品の値段が高すぎたり、それぞれの国の消費者ニーズを先取りできなかったからである。競合他社は現地(シンガポール)のサプライヤーを通して商品を展開するのが通例だが、ドンキでは日本側からの輸出とシンガポール側の輸入の両方を手がける、社内で「直接貿易」と呼ばれる手法で、中間マージンが売価に上乗せされるのを回避していると町田氏は説明する。

 2017年12月のシンガポール1号店を皮切りに、ドンキはアジアでの出店を加速中だ。すでに、タイ、香港、台湾、マレーシア、マカオで計31店舗を展開している。2024年までに、シンガポールでは23店舗まで拡大し、アジアでの総店舗数を76まで増やす青写真を描く。

 ドンキは2030年までに海外の売り上げを1兆円まで増やす目標を掲げている。日本のドンキからアジアのドンキへ。快進撃がどこまで続くのか注目だ。