役職定年の悲哀#3Photo:PIXTA

業界・企業によって内容に差が大きく、なおかつ明文化されていないことも多い役職定年制度。実際にその会社に所属する社員ですら把握していないことも多い。特集『中高年の給料激減!主要企業のデータ初公開!大企業の5割導入 役職定年の悲哀』(全17回)の#3では、編集部が実施したアンケートを基に、対象年齢や年収の減額幅など、その実態をつまびらかにする。そして、企業が役職定年制度を早々に見直さなければならない「ある理由」にも迫る。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

社員3001人以上の企業で75%が採用
知られざる役職定年の実態とは

「NTTは『55歳で年収3割減』」「東京海上は年収3割減」

 これが大企業での役職定年の実態だ。役職定年とは、一定の年齢と職位に達した管理職を、一律で役職から外すとともに年収が激減する制度のこと。冒頭のように、3割減少することは珍しくない。ローンや教育費を抱えるシニアにとっては大打撃だ。

 しかも、実は大企業の多くがこの制度を採用している。厚生労働省の「平成21年賃金事情等総合調査(退職金、年金及び定年制事情調査)」によると、従業員1000人以上規模の企業の約50%は役職定年制度を導入。ダイヤモンド編集部の調査でも。社員3001人以上の企業ではなんと75%が導入しているという結果が出た(調査詳細は次ページ)。

 にもかかわらずだ。役職定年制度は当該企業の社員にはあまり存在や詳細を知られていない。定年と異なり社員規定などで明文化していない企業も多いため、中には当事者になる直前で初めて、人事部から個別に制度の存在を知らされる社員もいるという。

 年収が激減し人生を左右する制度であり、しかも大企業のほとんどが導入している。しかし、まるで「存在しない」かのように、本人たちには詳細を知らせていない。はっきりいって、これは大問題だ。

 そこでダイヤモンド編集部では役職定年の全貌をつかむため、アンケート調査を実施した。

 本人に特に過失がないのに実際に定年を迎える日まで管理職の仕事を全うできず、定年の数年や10年前の時点で年齢を理由に一線から外す、という役職定年制度は、本人にとっては納得がいく制度ではないだろう。アンケートでも「能力や実績を加味せず年齢のみで一方的に役職を解かれ減給されるのは、納得感がない」「業績評価次第では減給とならない制度にしてほしい」などの声が集まった。

 役職定年制度はそもそもなぜ生まれたのだろうか。「1986年に施行された高年齢者雇用安定法で、それまで55歳または57歳だった定年が60歳に延長されたことがきっかけだった」と定年後研究所の池口武志所長は指摘する。

 つまり、定年の延長が法律で定められたので企業はそれに従い雇用延長をする義務を負ったものの、それまで就いていた役職からはかつて定年だった年齢で退いてもらう、とした経過措置がそもそもの始まりだったというわけだ。その後、団塊世代やバブル世代などで大量に採用された世代が占めていた管理職ポストを、次の世代に回して組織の新陳代謝を図るための手段として企業に使われてきた。

 だが今、この制度は幾つかの理由で見直さなければ後々企業経営に大きな禍根を残すことになりそうな状況になっている。

 次ページからは「対象年齢」や、「給料の減額幅」などアンケート結果をひもときながら役職定年制度の現実を見てみよう。そして、なぜこの制度がさらに問題となりそうなのか、その解決策はどこにあるのかについても考えていく。