「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。

【91歳の医師が教える】人の名前がぜんぜん出てこない…もの忘れ、認知症を予防するカンタンにして毎日できることPhoto: Adobe Stock

「嚙む刺激」で
脳の血流量をアップ

脳内の血流を促進して認知症を予防するために、もっとも手軽でおすすめなのは「嚙む」ことです。つまり、「そしゃく」の回数を増やすということ。そしゃくとは、口の中で食べ物をよくかみ砕いて、味わうことです。

意識してそしゃくの回数を増やすと、脳の血流量が増えてきます。それが、大切な脳の神経細胞に酸素と栄養素を供給してくれるのです。

それでは、なぜそしゃくをすると、脳の血流量が増えるのでしょうか? 実は、長年不明だったのですが、令和の時代になり、東京都健康長寿医療センター研究所の堀田晴美研究部長らの研究グループによって、明らかになりました。

咀嚼(そしゃく)すると
脳が働き出す

そしゃくをしようと意識すると、脳のなかでも「大脳皮質咀嚼(そしゃく)野」というところが働きます。ラットを使って調べてみると、そのとき「マイネルト神経細胞」という細胞が活性化して、「大脳皮質」の広い範囲で血流量が増加していたのです。

大脳皮質とは、脳のなかでも認知と密接に関わっている部分です。とくにマイネルト神経細胞は、認知機能と深く関わり、アルツハイマー型認知症では、この細胞が変性・脱落することがわかっています。

【91歳の医師が教える】人の名前がぜんぜん出てこない…もの忘れ、認知症を予防するカンタンにして毎日できること

30回以上そしゃくすると
1週間で短期記憶が改善

高齢者に、毎食ひと口あたり30回以上そしゃくをするように指導して、短期記憶(秒単位でしか保持されない記憶)をもとに、認知機能の変化を調べた研究があります。

そしゃくを指導した結果、1週間後にはそしゃく力と短期記憶が改善。さらに6ヵ月間継続すると、短期記憶が維持される傾向が見られ、認知症予防につながる可能性が示唆されています(出典:「咀嚼が一般高齢者の短期記憶に長期的に与える影響」[佐藤、大津、木浪、駒谷、山田、井上、野呂])。

昔から「ひと口30回以上嚙みなさい」といわれることが多かったのですが、その狙いは、そしゃくで消化・吸収を助けるためだけでなく、脳の血流量を増やすためもあったのかもしれません。

【次回に続く】 ※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。本書には、脳が若返るメソッドがたくさん掲載されています。ぜひチェックしてみてください!