ライバルがコンビニに?
立ち食いそばを巡る値上げ攻防戦

 さて、ここからは、立ち食いそば業界の現在の状況についても触れておきたい。

 飲食業だけでなく、すべての業種でもいえることだが、値上げラッシュが止まらない。立ち食いそば店でも、水、ガス、電気などの光熱費はもちろん、食材でもすべて(そば粉、小麦粉、天ぷら油、野菜類、魚介類、かつお節など削り節、煮干し、昆布、しょうゆ、砂糖、みりんなど)と言っていいほど価格が急上昇してしまっている。

 それを受けて、たとえば、東京都内を中心に首都圏で展開している大手「名代 富士そば」では6月1日、価格改定を実施した。基本的に、そば・うどん20円、ラーメン10円、天ぷら類・トッピング類は10円の値上げとなった(ただし、一律ではなく、値上げをしないメニューもある)。また、同じく「ゆで太郎」も6月1日に値上げ、もりそば・かけそば20円、朝そばは30円値上げとなった。

 他の中堅チェーンに聞くと、同じく20円程度の値上げだったが、それでは上昇分を賄えないという。それでは、なぜ20円前後の値上げにとどめるのか。

 たとえば、ラーメン業界では「1000円の壁」があり、1000円を超えると高いといわれているが、それが立ち食いそば店では、「500円の壁」というべきものがある。小腹が空いたときに気軽に駆け込める、つまり、1コイン=500円で立ち寄れる“お財布にやさしい”食事であったので、値上げ幅をそのまま転嫁できないというのだ。500円が上限で突破しないギリギリの価格帯の設定になる。

 新型コロナウイルス感染症の拡大によって働き方も変容、テレワークが浸透し、大手企業を中心に出社しないスタイルが定着しつつある。JR東日本では、コロナ禍による行動制限が緩和され、鉄道利用客数が回復したとはいえ、定期券収入はコロナ前の約77%、在来線(関東圏)は約79%、新幹線の利用は約59%にとどまっている(2022年4~6月期、連結決算)。駅そばの利用客、ランチに立ち食いそばを食べるビジネスパーソンが減少しており、業界には今後さらに大きな影響が出てくるだろう。

 先ほどのチェーンに聞くと、客足と売り上げは共に、すでにコロナ禍の中、前年比で約20%減だという。そして、昨今の物価上昇による値上げで、さらに経営は悪化するのではと危惧している。

 立ち食いそば店では昼飯時、セットものや大盛り、複数トッピングが人気だが、値上げとなると、今後はコンビニがライバルとなりそうだ。コンビニのそばに比べ、立ち食いそばではトッピングメニューが豊富といえども、そこが集客の決定打になるほどではないだろう。

 とある立ち食いそばチェーン店では、器をこの期に新調したという。あえて、費用がかかることを行った理由は、横から見てV字形容器からU字形に変えることで、そばとだしの量を減少しても見栄えよく映るようにするためだった。価格ありきの場合、量の削減は手っ取り早い対応策になる。また、朝食のセットメニューを充実させることで、コンビニや喫茶店の需要を奪おうと策を仕掛けているチェーン店もある。

 この状況が今後も続くようであれば今の値上げラッシュは通過点であり、今後、さらに価格は高騰していくだろう。立ち食いそばが、「1000円の壁」を攻防する日が近いと言わざるを得ない。

(講演・研修セミナー講師、マーケティング・コンサルタント 新山勝利)