「とても偶然ですが、富岡さんの奥様、こちらの三毒にまみれている状態ですよ」

 衣食住に困らず、子宝にも恵まれている。傍から見れば十分に満たされていいはずなのに、借金するほどの物欲は「貪」に他ならない。救急車で運ばれるに至る暴力を振るうだけでなく、感情に任せて無視を続けるのは「瞋」となる。そして「あんたが悪い」と夫を断罪し、自らの行動を省みない態度は「癡」に相当する。

 僕が夫婦関係の継続を望んでいることを伝えると、次の言葉を贈ってくれた。

「奥様が三毒に気がついた時、そこから引っ張り出す存在となりましょう。取るべき態度としては、心穏やかに同じ場所に糸を垂らし続ける。奥様が、その糸に気づいてつかんだ瞬間、持ち上げます。余所を向いたら、そのタイミングは分かりません。その瞬間を待ち続けられるエネルギーが、愛情だと考えます」

 待つ間、僕はこれまで通り「お帰り」「ただいま」「おはよう」と挨拶する。それに対する返事が「……」でも、決して怒らない。怒ってしまったら、僕自身が三毒に侵されることになる。僕まで染まってしまったら、夫婦ふたりで三毒の渦に飲み込まれ、脱出不可能だ。

「無明の人にも光は必ず射すと、僕は信じています。富岡さんが奥様との関係を続けたいなら、僕は120%で応援する。辛い時には、ここで吐き出してください」

 清原さんをはじめ、多くの人々を支えてきたカリスマ住職に「応援する」と言われると、非常に心強い。

 近い将来、妻は返事をしてくれるようになるのか。それとも、しばらく先か。もしくは、ずっとダメか。行く道は険しく、僕の人間力が試されることになる。