三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第121回は、不動産投資のリスクとリターンの考え方を学ぶ。
「リスクが高い=危ない」ではない
主人公・財前孝史は大富豪で不動産投資勝負のジャッジである塚原為之介に質問を浴びせ、値上がりで儲ける「キャピタルゲイン」と家賃収入で稼ぐ「インカムゲイン」の違いを学ぶ。情報を得た財前は藤田家当主の孫の美雪と一緒に物件探しに出かける。
私は不動産投資ではインカムゲイン重視派だ。キャピタルゲインはラッキーなおまけのようにみなしている。この保守的なスタンスをベースにして、長期運用では現物の不動産よりもREITを通じた間接投資を軸に据えている。投資資金の規模が限られる個人はその方がリスクとリターンのバランスがとりやすいと考えているからだ。順に説明しよう。
作中で大富豪の塚原は株式と不動産の決定的違いを「客観と主観」と表現する。金融の言葉なら、その差は流動性リスクと言い換えられる。株式はリアルタイムで価格が決まり、市場で買い手はすぐ見つかる。相対取引が基本の不動産はそうはいかない。買い手を探す手間も含めて流動性リスクは高い。
ただし、投資では「リスクが高い=危ない」ではない。リスクを引き受けなければ対価であるリターンは得られない。
不動産の場合、流動性リスクを引き受けるからこそ、株式に比べて相対的に高い利回りが得られる。大都市圏のそこそこのエリアのマンションなら、諸経費を考慮しないベースの賃料の利回りが株式の平均的な配当利回りより高い物件は珍しくない。
インカムゲインの高さが不動産の大きな魅力だが、問題は流動性リスクと自分の相性だ。資金に余裕があり、資金が一定期間固定されても耐えられる富裕層にとって現物の不動産は有力な投資先となる。
一方、手元資金が乏しい投資家がローンを組んで投資用不動産を買う形では、インカムゲインが多少有利でも、ほとんどのケースでリスクとリターンは見合わないと私は考える。金利負担や空室リスク、ランニングコストを考えると、相当の好物件を引き当てない限り「労多くして」となりかねない。
「投資用不動産でFIRE!」は魅力的だが…
投資用不動産を選ぶなら、インカムゲインだけでなく物件の値上がりチャンスがそれなりに高くないと割に合わない。だが、ここでも資金量の壁が立ちふさがる。
資産価値が落ちにくい都心周辺の駅近物件はすでに高騰しているから、投資の初期負担は重い。株式に比べれば不動産価格の変動は緩やかで、その点ではリスクは抑えられる。ただ、裏返しで考えれば、価格変動リスクの大きい株式の方が投資額を抑えながら資産運用全体のリスク量を引き上げやすいとも言える。
インカムゲイン、キャピタルゲインの両面から不動産投資の長所・短所をチェックしてみると、REITという商品は実にバランスが良いのが分かる。
流動性が高く、分散効果が得られて、小口から投資できる。金利上昇の逆風で「金利ある世界」では大きな値上がりは期待できないかもしれないが、分配金利回りはそれなりに高い。無理に投資用不動産に手を出すよりは、保有資産全体のリスクを抑えつつバランスの取れた運用ができる。
東証REIT指数に連動するインデックスファンドなら信託報酬(運用手数料)が非常に低い商品も多い。「投資用不動産の賃貸収入でFIREを!」という売り文句は魅力的に響く。だが、個人の資産運用は一発勝負に出るような営みではない。リスクとリターンのバランスに常に目配りするべきだ。