健康寿命の伸ばし方を全米トップ病院の医師が伝授、「5つのM」を意識せよ撮影/金栄珠(講談社写真部)

超高齢化社会を迎える日本でも、高齢者を専門とする老年医学や高齢者医療に注目が集まっている。人生100年時代に備えた人々の意識も「ただ長生きする」から「いかに健康寿命を延ばすか」にシフトしたのではないか。ニューヨークにある大学病院で内科専門医・老年医学専門医を務める山田悠史氏は著書『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』の中に、“健康な老後につながる指針”をふんだんに詰め込んだ。山田氏が勤務するマウントサイナイ医科大学は、全米病院ランキング「老年医学」部門3年連続1位(U.S.News)。そこでの診療の指針となっているという「5つのM」とは何なのか、そして健康寿命を延ばすために気をつけたいことをインタビューで聞いた。(取材・文/金澤英恵)

「最後の10年を元気に生きる」ために必要なこと

――山田先生の書籍のタイトルにもなっている「5つのM」について教えていただけますか。

山田悠史医師(以下、山田) 日本人は、平均で男性なら約81歳、女性なら約87歳まで生きると報告されています。ただし、日本人の健康寿命は、男性なら約72歳、女性なら約75歳とされています(※1)から、健康な老後を目指す上では「最後の10年も元気に生きるために何ができるのか」を考える必要があるわけです。その課題を次の5つのコンセプトに整理してくれたのが「5つのM」です。

1. Mobility[からだ](身体機能)
2. Mind[こころ](認知機能、精神状態)
3. Medications[くすり](ポリファーマシー)
4. Multicomplexity[よぼう](多様な疾患)
5. Matters Most to Me[いきがい](人生の優先順位)

 この考え方は、2017年にカナダおよび米国老年医学会から初めて提唱されました(※2)。私自身も老年医学専門医として、この5つのMに沿って高齢者の診療にあたっています。

――日本ではまだ聞き馴染みがありませんが、つまりこの5つのMは、高齢者診療の「指針」と考えればいいのでしょうか。

山田 おっしゃる通りです。例えば、65歳以上の約10人に1人は車椅子か寝たきり※と言われますが、そうならないように転倒を防ぐにはどうしたらいいか。身体機能を維持するために生活習慣を見直す必要はないか。そうしたことをMobility[からだ]の指針に沿って医学的視点で考えていくことになります。

 加えてMind[こころ]では、認知機能や心の健康を維持する方法を模索します。身体に異常がなくても、認知機能や心の健康を損なってしまえば「健康な老後」とは言い難いからです。このように5つのMは一つ一つが独立しているわけなく、包括的に診ていくべきものとして捉えられています。

 高齢になると複数の薬を飲む方が増えるため、Medications[くすり]の指針を元に見極めることも重要ですね。治療のための適切な薬剤を「処方する」だけでなく、薬が多すぎないか、薬物の相互作用が出ていないかを点検して、「減らす/中断する」視点でもチェックしていくことになります。