経済学者の坂井豊貴氏と安田洋祐氏の緊急対談が実現!対談前編では、ノーベル賞が分野によってスポンサーや選考方法が異なる事情を明かす。さらに、論文の引用件数での予測は、「的外れ」とバッサリ。あわせて経済学賞選考の3つのポイントを解説。アインシュタインを含めた歴代3人の受賞者の驚くべき共通事項とは?(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
賞によって選ぶ団体が異なる
共通項は「北欧のお祭り」
――ノーベル経済学賞について、受賞発表前に知っておいた方が良いことを教えてください。
慶應義塾大学経済学部教授/Economics Design Inc. 共同創業者、取締役/プルデンシャル生命保険株式会社社外取締役/株式会社デューデリ&ディール チーフエコノミスト/株式会社Gaudiy 経済設計顧問/日本ブロックチェーン協会アドバイザー/東京経済研究センター理事。学位:Ph.D. University of Rochester。著書『多数決を疑う』(岩波新書、高校国語の教科書に掲載)、『マーケットデザイン』(ちくま新書)ほか。
坂井 次の指摘から始めます。蓮實重彦先生の『随想』(新潮社)のエッセーの一部です。「そもそも、ノーベル文学賞というものは、スウェーデン・アカデミーというあくまでお他人様が集団的に演じて見せる恒例の年中行事」(20ページ)、「このグローバライズされた地球にあって、人はなお、ノーベル賞受賞者の国籍がたまたま同じであることに悦びを見出さずにはいられないほどはしたない存在なのだろうか」(24ページ)。
これは、日本の多くの報道機関が、日本人の受賞者が出たかどうかを重点的に報道していることへの皮肉の表れです。すごく同感です。
蓮實重彦先生は、ノーベル賞の重要な性質を言っています。スウェーデンの人たちの年中恒例行事の賞。この特徴を、きちんと理解する必要があります。
安田 少し解説すると、文学賞を選んでいるのは、学者や作家を中心に18人から成る学術機関であるスウェーデン・アカデミーです。
経済学、物理学、化学はスウェーデン王立科学アカデミーが選び、生理学・医学は、スウェーデンの医科大学であるカロリンスカ研究所が選んでいます。平和賞はそもそもスウェーデンではなくノルウェーです。ノルウェー国会が選んだ5人で構成するノルウェー・ノーベル委員会が選考します。
一口にノーベル賞といっても、選ぶ集団が名目上は違いますが、坂井さんがおっしゃったように、基本的には、お他人様が集団的に選んでいる北欧のお祭りですよね。
坂井 そうですね。それを分かった上で、われわれも、せっかくのお祭りなので楽しみましょうというスタンスです。ノーベル賞は権威があり、良い学問を決めていると勘違いしてはいけないと思います。
(ここからはノーベル賞が分野によってスポンサーや選考メンバー、選考方法が全く異なる事情を明かす。さらにノーベル経済学賞は論文の引用回数などで事前に予測されているが、「それは間違っている」とバッサリ。あわせて経済学賞選考の3つのポイントを解説していく)