会見に臨む日本銀行の黒田東彦総裁会見に臨む日本銀行の黒田東彦総裁 Photo:JIJI

今の日本銀行の金融政策に対して、国民はもっと怒りをぶつけていいのではないか。不必要な円安圧力をかけて国民の実質的な購買力を奪い、政府の政策パッケージとの矛盾も隠しきれなくなっている。日銀はインフレ目標を大義名分にしてこの政策を続けていくつもりだが、さらに、インフレ目標の正当性を否定する歴史的、国際的は研究も世界中に幾つも存在している。日本国民にとって本当に望ましい経済・金融政策を議論すべき時期だ。(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)

スウェーデンで生じた
超金融緩和策を巡る怒りと騒動

 日本人は、個々の利益を比較的あまり前面に主張せず、全体の利益をおもんぱかる“美徳”を持っている。しかしながら、今の日本銀行の金融政策に対しては、国民はもっと素直に怒りを向けても構わないのではないか?と筆者は最近思い始めている。

 現在の金融政策は不必要な円安圧力を生み出し続け、輸入物価の上昇を増幅させ、われわれの実質的な購買力をいたずらに奪っているからである。

 下図は2年前の2020年10月初めから現在にかけての対ドル為替レートの変化を表している。ブラジルやメキシコのようにインフレ率の上昇以上に中央銀行が政策金利を引き上げてきた国の通貨は上昇している。対照的に日本円の下落は激しい。9月22日の記者会見で日銀の黒田東彦総裁は政策金利を2~3年変える必要はないとわざわざ断言したが、そういった頑なな姿勢が円の下落を加速させてきた。

 2019年にスウェーデンで、国民が中央銀行(リクスバンク)の超金融緩和策に怒り心頭となったことがあった。

 同行はインフレ率を目標の2%に押し上げるためにマイナス金利政策を維持し、通貨クローナは為替市場で下落を続けた。それによる対外的な購買力の低下に激怒する国民が増え、侃々諤々(かんかんがくがく)の大論争が生じたのである。

 一時は中銀総裁がガードマンを数人つけないと外出しづらい事態にさえなった。

 スウェーデン財界でも過度な通貨安を問題視する見方が主流となった。元首相が「クローナ安がこれほど進むと、外国の投資家がわが国の資産を買いあさる」と怒りのツイートを発したことも話題になった。

 大騒ぎの中、住宅市場の過熱もあって、リクスバンクはインフレ率が目標より低かったにもかかわらず、19年12月にマイナス金利政策の解除を決定した。

 日本でもそういった遠慮のない侃々諤々の論争が起きる方が健全と思われる。日本のインフレ率は少なくとも数カ月内に3%台半ばへ達しそうだ。上記の19年のスウェーデンのインフレ率よりはるかに高い。

 さらに、日銀と政府の政策パッケージの矛盾も隠しきれなくなっている。また、日銀は今後もインフレ目標を大義名分にしてこの政策を続けていくつもりだが、同目標の正当性を否定する歴史的、国際的な研究の結果が世界中に幾つも存在している。

 日銀の金融政策をわれわれがもっと議論すべき理由について、さらに深掘りしていこう。