日本企業の停滞を招いた
「経路依存性」

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入山 日本の企業では長らくこの「知の探索」が促されてきませんでした。それは「経路依存性」によっているからだというのが私の考えです。英語の「Path dependence」という考え方ですね。

 会社だけでなく、日本全体がそうともいえますが、組織というのはいろいろな要素から成り立っていて、それが合理的にかみ合っているから組織が回る。当たり前といえば当たり前ですが、いい感じでかみ合っている。そのどこかひとつだけを「時代に合わないから変えよう」としても、ほかがかみ合わなくなるので、結局は変えられない。これが経路依存性です。

 白坂先生が前々回でおっしゃった、「ディペンダビリティ・エンジニアリング・フォー・オープンシステム」の話がまさにその考えですね。一部だけでなく、全体をどうやってうまく変えていくか。それがなかなか難しいわけです。

 たとえば、「ダイバーシティが大事だ」と長年、言われているのに、日本の企業で全然進んでないのはなぜでしょうか。ダイバーシティだけやろうとしても無理ですよ、という話を私はよくしていまして、ほかの要素が、ダイバーシティではない状態でかみ合っているからです。

 ダイバーシティを進めたいのなら、そもそも新卒一括採用や終身雇用、メンバーシップ型雇用(※終身雇用を前提に、職務を限定せずに採用し、企業に合った人材を長期にわたり育成していく「日本型」雇用システム)なども見直さないと、無理に決まっています。新卒一括では多様な人を採れるはずがありませんし、終身雇用のままで多様な人材を集めるのは難しい。

 本当に多様な人材を採りたいのであれば、評価制度の見直しも必要です。多様な人が同じ評価軸で評価できるはずがありませんよね。ところが日本の企業は、評価制度を変えようとせずに「多様な人材を」と言っています。働き方改革も大事です。会社で働きたい人もいれば、家で働きたい人もいるわけです。これだって多様性です。ところが、コロナ禍になってから、あれほど騒がれていた働き方改革がまったく進んでいなかったことが露呈されました。

 このように、経路依存性から脱却し、全体を変えるということはものすごく大変なことですが、企業が本当にイノベーションを起こしたいのであれば、やらなければならないことなんですね。もちろん、数多くの失敗もするでしょう。僕はそれをリスクとは思いませんが、企業にとってはリスクですよね。でもそのリスクを、ある程度は取らなくてはならない。その覚悟が必要です。

 リスクを取って進めようとする人材や組織風土が必要なのに、日本企業はリスクを取れる人材を育ててきませんでしたし、そういった企業風土もありません。むしろ「リスクを回避しろ」「失敗してはいけない」という人材育成をしていますから、「知の深化」のほうとがっちりかみ合ってしまっていて、「知の探索」ができないんです。