ガバナンスを利かせつつ
長期志向の経営へかじを切る

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入山 日本企業は意思決定に非常に時間もかかります。さらに言いますと、意思決定できる社長が重要ですが、日本の大手企業は、ご存じの通り、社長の任期が2年2期とか3年2期とか決まっていたりします。これは謎の任期で、法律にはそんなことは一言も書かれていません。

 2年、3年で辞めると決まっていれば、社長は長期のリスクを取りませんし、「知の探索」なんてやるはずはないですよね。「知の深化」で今、目の前でもうかっている得意分野だけ深掘りして、PLだけ良くして、無難に過ごせることができれば、「任期中に業績を上げた」という評価を得ることができるわけです。

 長期でリスクを取るには、長期志向の経営ができなければなりません。そのため、社長の任期を見直して、本当に意思決定ができる人に、10年、20年任せるぐらいのことが必要です。

 日本で今、結果を出している企業は、日本電産、ソフトバンクグループ、ファーストリテイリング、ダイキンなど、いずれも創業者が今もトップで、超長期ですよね。「長期でトップをやらせると独裁になるのでは」とご質問をいただくのですが、それは全然違います。もちろん、長期的な任期の中でトップが強くなりすぎて、いわゆる独裁になる会社もありますが、そうならないようにするためのものが「ガバナンス」です。

 私もいくつかの会社の社外取をやっていますが、社外取という仕事は、究極は「ダメな社長」をクビにする仕事です。取締役会の過半数を取って、もうとにかく社長の長期経営を応援する。万が一、その社長が調子に乗ってあまりにもひどいことをするようであれば、クビにして、社外取も一緒に辞めればいい。それが仕事です。

 ところが日本の企業は、そうはなっていません。「激ヌルい」、短期志向のお飾りのガバナンスしかなくて、会計士や弁護士や大学教授を社外取にして、取締役会の過半数を取らせない。どう見ても社長はクビにならないわけですよ。リスクを取って意思決定するためには、長期経営できる組織風土が必要であり、それにはガバナンス改革も重要です。

 日本企業は、高度経済成長期につくった経営の仕組みで、バブルがはじけるまでギリギリ持ちこたえていましたが、今の時代に合わなくなりダメになっているのに変えられないままズルズル来てしまいました。その結果が「平成の失われた20年」なんです。一方で、スタートアップは、経路依存性でかみ合っているものがなく、ゼロからつくれるからイノベーションが起きやすい。これまでの日本企業と正反対の仕組みをつくっていけば、いずれイノベーションは起こるはずです。

 日本の大手・中堅企業は、イノベーションとは正反対の、経路依存性でがっちりかみ合ってしまっているので、まさに白坂先生がおっしゃったような新しい時代に対応していくために、個々の要素も変えながら、全体を変えていかないと、イノベーションは起こらないんですね。

日本の経営者は
意思決定の経験が少ない

白坂先生

白坂成功(以下、白坂) その通りですね。日本で今、そのような変化を実践している企業はどこが思い浮かびますか?

入山 実は結構ありまして、一番わかりやすいのはソニーですね。平井一夫さんが代表になる前は、失礼ながら、「知の深化」型の経路依存性だったのですが、平井さんが、非常に地道に、これを変える作業をされていました。あまり表に出てはいませんが、企業風土も結構変わっています。

 平井さんは、最初のうちはおひとりでがんばっていらしたけれど、副社長の時、現在の代表の吉田憲一郎さんを重用しました。そのあたりからチームで取り組むようになり、どんどん波及し、全体が変わっていきました。先日も、エピック(※人気ゲーム「フォートナイト」で知られる米Epic Games)に投資をしたり、アニメの分野も強いですし、ソニーは今、攻めていますよね。ですから、これまでの日本企業だって、その気になれば変えられるということなんです。

白坂 日本企業は絶対に変われない、ということではないというわけですね。一方で、日本企業は出てきた人を引き上げることはできますが、リーダーや経営陣を育てるのは苦手ですよね。

入山 そうですね。こういうことを言うと怒られてしまうかもしれませんが(笑)、ソニーは意外と、人材を育てることは得意ではなく、平井さんがたまたま異色だったんです。平井さんはもともと社長になる気がなく、音楽が好きだったので、CBS・ソニー(※現ソニー・ミュージックエンタテインメント)に入社し、縁があって会社を立て直すという経験をして、次に、当時あまり上手くいってなかった、ソニー・コンピューターエンターテインメント(※現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)を立て直すところでも、腹をくくった意思決定をやってきました。そういう人が抜擢された。

 賛否あるのですが、 日本とアメリカの経営者の大きな違いのひとつは、「経営者が他の会社の経験があるかどうか」なんです。アメリカの経営者の7〜8割は、複数社の経営を経験しています。でも日本の経営者は、内部昇進の生え抜きがほとんどですよね。意思決定の経験が少ないので、遠くを見ようとせず、あるいは見えておらず、「知の探索」をしてきませんでした。

近日公開の対談第4回もぜひご覧ください。