「ミクロ」の視点とは、「どちらの国が、どの地域を攻撃し、どれだけの被害が出たか」といった日々の戦況に着目することを指す。

 どちらかというとニュース番組などは、こうした解説が中心になっている印象だ。メディアを通して連日、ウクライナ周辺の戦況を示す地図を目にしている人も多いだろう。

 一方、「マクロ」の視点とは、ウクライナおよび西側諸国とロシアの力関係を、中長期的な視点で分析することを指す。「ミクロ」の報道がすでに充実していることもあり、本稿では「マクロ」の観点からウクライナ情勢を解説していきたい。

「マクロ」な視点で読み解けば
ロシアはすでにNATOに屈している

 そもそもプーチン大統領は、今年2月にウクライナへの侵攻を決断した理由の一つとして、北大西洋条約機構(以下、NATO)の東方への拡大で、ロシアの安全保障が脅かされたことを挙げていた。

 東西冷戦終結後の約30年間で、旧ソ連の影響圏は、東ドイツからウクライナ・ベラルーシのラインまで後退した。旧ソ連の衛星国だった東欧諸国、旧ソ連の構成国だったバルト3国などは、NATOと欧州連合(以下、EU)に次々と加盟した。

 2014年の「クリミア危機」で、ロシアはウクライナ領だったクリミア半島を占拠した。このロシアの動きは波紋を呼んだが、かつての“仲間”が続々とNATOやEUに加わっている状況下での「窮余の一策」だったといえる。

 例えるならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれたボクサーが、やぶれかぶれで出したパンチのようなものだ(本連載第298回)。

 その後も「ロシア離れ」の動きは進み、今年2月のウクライナ戦争開戦時、ウクライナでは自由民主主義への支持が広がっていた。具体的な動きはなかったものの、NATO・EUへの加盟のプロセスの実現可能性が高まっていたのだ(第299回・p2)。

 ロシアはこうした情勢を、2014年よりも深刻な状況だと捉えていたようだ。

 というのも、開戦当初のプーチン大統領は米国とNATOに対して次の「3つの要求」を突き付けていた。

 その要求とは、「『NATOがこれ以上拡大しない』という法的拘束力のある確約をする」「NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない」「1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する」というものだ。

 この内容からも、ロシアがNATOの東方拡大でいかに追い込まれていたかがわかる(第297回・p2)。

 そしてウクライナ戦争開戦後、ロシアの苦境はさらに深刻化した。従来、ロシアとの対立を避けるためにNATO非加盟の方針を貫き、「中立政策」を守ってきたスウェーデンとフィンランドがNATOに正式加盟したからだ。