ロシアの欧州向けの輸出はパイプラインで行われるため、売り先を変更できない。欧州への輸出減を、他国向けで完全に代替することは不可能だ(第304回)。石油・ガスの輸出に依存するロシア経済には大打撃となる。

 さらに、西側諸国による経済制裁の一環で、約6000億ドルといわれるロシア中央銀行の国際準備資産は一部凍結されている。ロシアの有力銀行も、SWIFTやユーロクリア(国際証券決済機関)などから排除されている。

 これらの2措置は、ロシア経済を次第に苦しめている(第298回・p4)。経済制裁を受けたからといって、プーチン政権がすぐに倒れるわけではないが、じわじわと追い詰められていること変わりはない。

 貿易縮小や輸入品の価格上昇が起きると、ロシアの物資・戦費調達は困難になる。経済・金融面から、戦争を続けることが難しくなっていくだろう。

 実は経済的にも、NATO側がロシアに対して圧倒的優位に立っている。これが「マクロ」なウクライナ戦争の現実だ。

 では、ロシアがこうした状況を打破するために、核兵器を使用してウクライナを攻撃する可能性はあるのか。

ロシアの「核使用」の可能性は低くても
「核の脅し」は今後も続くだろう

 ジョー・バイデン米大統領は先般、プーチン大統領が戦術核の使用可能性に言及したとき、「(プーチン氏は)冗談を言っているわけではない。もし物事がこのまま進めば、キューバ危機以来、初めて核兵器使用の直接的な脅しを受けることになる」と発言した。

 決して、ただの脅しではなく、現実的な脅威であるとの認識を示したのだ。

 この「核の脅威論」について、国内外のさまざまな識者が「ロシアが核兵器使用に踏み切る可能性は著しく低い」と述べているのをよく見聞きする。

 彼・彼女らの論調は、「核兵器の使用は、ロシアが被る政治的なリスクが大きすぎるので、あり得ない」というものが多い。

 確かに、もしロシアが核兵器を使用すれば、ロシアとの直接対決を慎重に避けてきたNATOは激しく反発するだろう。NATOが参戦すれば、ロシアの壊滅は避けられないため、核兵器使用の「可能性が低い」という指摘もうなずける。

 しかし私は、たとえ実際に使わなかったとしても、ロシアによる「核の脅し」は今後も続くだろうと思う。特に、小型の「戦術核」の使用をちらつかせ続けるだろう。

 現在はウクライナが反転攻勢を強めて、侵略された領土を徐々に奪い返している。これに対して、ロシアは新たに併合した「領土」を守ることを大義名分として、ウクライナに戦術核を使用すると脅している。

 その目的は、ウクライナの攻勢を止める以上に、NATOを揺さぶり、加盟国の結束をバラバラにすることだ。