セレモニーの場で握手を交わす稲盛和夫氏と孫正義氏(2017年7月撮影)セレモニーの場で握手を交わす稲盛和夫氏(左)と孫正義氏(2017年7月撮影) Photo:JIJI

京セラとKDDIの前身の第二電電を創業した稲盛和夫氏、ソフトバンクグループを創業した孫正義氏、日本電産を創業した永守重信氏。いずれも日本を代表する経営者だが、稲盛氏にあって孫氏や永守氏にないものが後継者への経営継承だ。稲盛氏はなぜ経営の第一線を退き、後継者に経営を託すことができたのか。その三つの理由を探る。(イトモス研究所所長 小倉健一)

カリスマ経営者の後継者問題を
経営リスクにさせなかった稲盛氏

 京セラ、KDDI(第二電電)を創業し、日本航空(JAL)を再建。3社のいずれも日本を代表する企業にまで成長・復活させ、「経営の神様」との呼び声が高まった稲盛和夫氏は、65歳で一度引退をしている。

 60歳を超えたころの稲盛氏は、京セラと第二電電の会長職にあって、DDIポケットを設立し、PHS事業を展開しようとしていた。また、低軌道衛星で世界中どこにいても電話ができるようになるイリジウム計画が端緒に就いたころだった。

 それらの事業が落ち着き、「新しい事業の目鼻もついた」として65歳で第一線を退いたわけだが、そう簡単な決断ではなかったはずだ。ソフトバンクグループの孫正義氏、ファーストリテイリングの柳井正氏、日本電産の永守重信氏ら日本を代表する創業者や創業家の経営者たちが後継者をなかなかつくれずに経営の第一線にとどまっている。その現状を見ていると、この引退には周到な準備があったことがうかがい知れる。

 稲盛氏はなぜ、自らが創業した会社をうまく後継者に託すことができたのか。筆者が考える三つの理由をご紹介したい。

 前述した会社以外にも、日本にはカリスマ経営者の後継者問題が巨大リスクになってしまっている会社が多くある。そうしたことを鑑みると、稲盛氏の円滑な経営継承は示唆に富んでいる。