1ドル150円でサプライチェーンに起きる悲劇、超円安時代の対処法とはPhoto:JIJI

円安が進行し1ドル160円台も不安視される今、ビジネス現場で最も必要なリスクマネジメントとは?実際のビジネスでは、使用通貨が複数あるケースも多く、さらにエリアごとの輸出入で使用している通貨が異なる。円安だ、為替影響は?といっても話は複雑で、一筋縄ではいかないのが現状だ。超円安時代の新たなリスクマネジメント法を、サプライチェーンの専門家が提唱する。(未来調達研究所 経営コンサルタント 坂口孝則)

為替影響を“正しく”知ろうとする茶番

「なんで予想できないんだ!」――最近、日本中の企業の会議室から聞こえるであろう声である。いや、罵声といってもいいかもしれない。何かというと為替の問題だ。

 10月から多くの企業で下期がスタートした。あるいは2023年1月から新年度という企業もあるだろう。予算計画を作成するときに重要なのが、為替をいくらで予想するかだ。

 大企業であれば財務部門が為替予想し、為替予約(今後、外国通貨を購入する価格と数量を現時点で契約する取引)を行い、全社のヘッジを行う。為替については、投機筋の動向もあるし、米国の金利政策もあるし、財務省や日本銀行の金融政策や市場介入もあり、因子が多すぎて読めないのが今の実情だ。

 次に重要なのが、為替による具体的な事業への影響だ。調達品はサプライチェーン部門が担当するが、さまざまなパターンがあり非常に難しい。サプライチェーン部門に期待されているのは、為替レート変動によってどのくらいコストアップになるか。とどのつまり、どれくらい利益が悪化するかを正確に試算することだ。

パターン1 自社←海外サプライヤー
 この場合は最もわかりやすく、自社為替予想レートで試算できる。

パターン2 自社←国内商社←海外サプライヤー
 このケースだと各商社に為替レート予想を質問する必要がある。「質問すればいいだろう」と思われるが、ただ、例えば商社が10ドルの製品に1000円の口銭を加算して販売しているとしよう。

 1ドル110円の場合と1ドル150円の場合で試算すると、
 10ドル×為替1ドル110円+1000円=2100円
 10ドル×為替1ドル150円+1000円=2500円となる。

 しかし、商社は原価の内訳を教えてくれない。為替1ドル110円が150円になるのだから、150÷110=1.36倍だ。だから、元の2100円×1.36=2856円かと思うと、高めに予想することになる。

パターン3 自社←国内メーカー←無数の国内商社←海外サプライヤー
 恐らくこのパターンが最も多いだろう。国内メーカーが大手ではなく、中小企業がほとんどなので、無数の国内商社へのヒアリングは実質できず、“出たとこ勝負”で仕事をしているケースが大半だ。だからいざ調査してもわからずじまいで、「また円安になったら各社から値上げの通知が届くはずです」くらいにお茶を濁すほかない。

 こうして、日本中の会議室では「なんで予想できないんだ!」と役員からサプライチェーン部門への罵倒が繰り返されている。サプライチェーン部門の担当者の本音は、「為替を正しく予想できたら大金持ちになっているはずで、こんな企業では働いていませんよ」とか「複雑怪奇なサプライチェーン全体の為替影響を計算できたら、学者にでもなっていますよ、ワッハッハ」といったところだろう。が、そう開き直るわけにもいかないので、結局はパターン2の変奏曲として、ざっくりした試算しかできず、そして外れる。