落ち込むのは一瞬だけ
すぐに前を向く

 俊輔には「天才」に通じる、華やかな形容詞が常につけられてきた。プレースタイルから「黄金のレフティー」や「ファンタジスタ」とも呼ばれたが、素顔はさまざまな目標をかなえようともがき続けた軌跡にあり、愛してやまないサッカーを泥臭く追求してきた背中にある。

 横浜FCの四方田監督は「サッカーをずっと考えている」と俊輔の日常に目を細めた。

「いろいろな国のサッカーだけでなく、日本のなかでもいろいろなカテゴリーの試合も見ている。サッカーに対する探究心がものすごいし、それらを自分のプレーに積み重ねてきただけでなく、きついリハビリにも地道に取り組む姿も見てきた。44歳の選手がとにかく自主練習をたくさん積んでいる姿を見ても、あの技術は努力の積み重ねで培われたものだと感じている」

 俊輔のキャリアを例えるなら「永遠のサッカー小僧」となるだろうか。昨日よりも今日、今日よりも明日と進化していく自分しか考えていない、究極のポジティブ思考を脈打たせてきた。だからこそ、かなえられなかった目標があっても、落ち込むのは一瞬だけですぐに前を向く。

 その視線はすでに、引退後のセカンドキャリアへ向けられている。俊輔は「なので、指導者になっても一緒です」と今後に言及し、自身の具体的な将来像も明かしている。

「サッカーと一緒でゼロからだね。自分の感覚を一回捨て去る必要があるし、指導者とはなんぞや、というところから始めないと。経験がじゃますることもあるだろうし、だから全部、空の状態から始める。やっぱり人と人だから。信頼や人間性が戦術よりも勝るのを見てきたから。真っ白にしてから始めないと、自分の経験も生きてこないから」

 Jクラブの監督を務めるには、日本サッカー協会が発行する公認指導者コーチライセンスを、C級から順にB級、A級、S級と順次取得していかなければならない。すでにB級まで取得している俊輔は、インストラクターから忠告に近いアドバイスを受けたと明かした。

「B級を取ったときに『答えを知っているから、ちょっと教えすぎかな』と。考えさせるというか、それを促す作業が必要だと言われてなるほどと思ったし、これからA級、S級とあるなかで、いろいろなことにトライして、いろいろな角度でいろいろな人から吸収していきたい」

 指導者を目指す過程でも「もがく」をテーマに定める俊輔が、右足首の状態を気遣う日々からは解放された。熊本戦後の囲み取材の最後に、メディアから「明日からは練習しなくていいんだよね」と声をかけられた俊輔は、こんな言葉を残して空港へ向かった。

「明日から4日間、休みだから」

 言葉の意味は、26日に明らかになった。5月に死去した元日本代表監督、イビチャ・オシムさんをしのぶ11月20日の追悼試合に参加するメンバーの一人に、俊輔も名を連ねたからだ。天国のオシムさんに中途半端なプレーは見せられないとばかりに、俊輔は「永遠のサッカー小僧」の素顔を全開にして、横浜FCのオフ明けに万全の調整を自らに施して試合当日に臨むはずだ。