そんな中、久々となる鉄道事業者公式の中古車両の売却が行われた。2021年10月、東急電鉄が田園都市線で用いられてきた8500系「8622編成」の8522号、8622号と「8630編成」の8530号、8630号を売り出したのである。

販売価格は176万円だが
設置には多額の費用

 8500系は1969年に登場した8000系車両(2008年引退)のマイナーチェンジ車両として1976年に登場した。1977年に開業した新玉川線(現在の田園都市線渋谷~二子玉川間)、1979年に開業した地下鉄半蔵門線の主力車両として用いられ、2003年に東武伊勢崎線との相互直通運転が始まると埼玉県にも進出した。

 東急によれば2カ月弱で6倍近い23件の応募があり、その多くは建設業や医療法人からの注文だったそうだ。販売価格は1両当たり176万円と手が届きそうな値段だが、実際に設置するためには、さらにさまざまな費用が必要になる。

 車両は1両当たり全長20メートル、幅2.8メートルの大きさで、重さは30トンにもなる。これだけの重量物を設置して沈んだり傾いたりしない固い地盤でなければならないし、そもそもこれを輸送する大型トレーラーや、車両をつり上げる大型クレーンが現地に入れることが必須条件だ。

 加えて車両を設置するためのレールや枕木、バラストが必要であり、また古い鉄道車両には防音・防錆塗料として用いられているアスベストを除去しなければならず、これらの費用を合計すると数千万円に達する。

 さらに購入後も、定期的にメンテナンスを行う必要がある。8500系の車体はステンレス製なので腐食はしないが、その他の部品の劣化により雨漏りが発生し、内装材が劣化する可能性があるという。そのため東急は募集にあたって「車両を適切に保存していただくことが可能と判断できる方」との条件を付けている。

 東急としては初めての車両一般販売であったが、こうした多くのハードルがあるため、なかなか譲渡先が決まらなかった。筆者はこの件について何度か問い合わせたが、その度に「まだ決まらないんです」との言葉を聞いたものだ。

 なかなか縁に恵まれなかった8500系だが、ようやく1両の売却先が決まったというニュースが入ってきた。東京の社会福祉法人新樹会が、名乗りを上げたのである。