病気になると
脳の情報処理がうまく機能しない

 この訓練を定期的に繰り返すことで症状が改善していく。中には1回で効果が表れる患者もいるという。にわかには信じられないが、治療法を開発した株式会社mediVR代表取締役社長・原正彦さんに詳しく話を聞いた。

 なぜ、VRに着目したのか?

「人間は目に見える様々な映像を脳で処理しながら日常生活を送っています。ところが病気にかかると、その情報処理がうまく機能しなくなります。疾患とは言うなれば『脳と体の情報処理過程の異常』なのです。私はそこに着目しました。脳を再プログラミングすることで、正常な状態に近づけ、心身の機能を取り戻せると考えたのです」(以下、原さん)

VRを使った「仮想空間リハビリ」で常識が変わった、最新機器を体験mediVRカグラを開発した循環器内科専門医の、原正彦さん Photo:mediVRカグラ

 原さんは、大阪大学医学部附属病院循環器内科で学位を取得した現役の医師である。自身の研究成果を社会で活用してもらうために、2016年に大阪大学発ベンチャーとして株式会社mediVRを設立した。

「従来のリハビリは、患者さんの目から入る情報量が多過ぎると考えました。例えば、他の患者さんの様子が気になったり、自身の体が見えることで感覚を研ぎ澄ますことが困難になると考えました。しかし、カグラはヘッドセットを装着することで外界からの視覚情報の入力が制限されるため、余分な情報が一切入ってこないのです。これが効果的なリハビリを実施する上でとても重要なポイントとなっています」

 カグラの基本ゲーム画面に映る映像は、どれも背景がシンプルである。そのため、患者が情報を処理する負荷が低く、眼前のゲーム内で自身の体を使いこなすことに集中することができる。その結果、次第に脳の情報処理機能が活性化され、失われた機能が回復していくのだという。

VRを使った「仮想空間リハビリ」で常識が変わった、最新機器を体験カグラで用いるVR機器、HTC VIVE Pro Eyeのヘッドセットとコントローラー Photo:mediVRカグラ
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 リハビリは必ず座位で行う。座った状態でコントローラーを握った手を交互に伸ばすと、体幹が鍛えられ、歩行に必要なバランス感覚や、重心移動のコツをつかむことができる。また座位なら転倒のリスクが低く、歩行が難しい患者でも安全に行える。ゲームは現在5種類あり、患者の状態に応じて、落下物の距離や高さ、角度などを調整できる。

「カグラを使ったリハビリでは、目標物の座標位置を患者さん自身が強く意識する必要があります。このことにより患者さんの自発性が引き出され、内発的動機付けが形成されるのです。さらに目標動作がうまくできたときに視覚、聴覚、触覚を刺激することで、『体をどのように動かせばよいのか』を脳が効率的に再学習して機能が回復していきます。簡単に説明するとこういったプロセスで脳の再プログラミングを行っているのです」