「成果報酬型」の支払い体系で
患者の不安を払拭する

 実際のリハビリ現場も取材した。

 40代の男性会社員Aさん。5年前に脳出血を起こし、右半身にまひが残ってしまった。昨年12月から週に2回ほどカグラでリハビリを行っている。

 最初は手を伸ばすこともできなかったが、訓練を続けた結果、今では見違えるほどスムーズに動かすことができるようになった。担当の理学療法士・岡田拓巳さん、鳥飼悠基さん、作業療法士の村川唯さんは「驚くほどの回復力です。できることが次々と増えています」と成果を話してくれた。

 1回のトレーニングで効果が出たケースを紹介しよう。左の大腿骨を骨折したこちらの女性。89歳という高齢だが、手術から5日目にリハビリを行うと、歩行速度が格段に速くなっている(詳細はこちらの動画を参照)。

 カグラは2019年3月に販売を開始。現在、大学や病院、介護付き老人ホーム、デイケアなど全国47の施設に導入されている。昨年11月に大阪にmediVRカグラを活用したリハビリを受けられる専門施設を開設。この10月には東京にも施設を開設した。

 ちなみに「カグラ」という名称は、神社で行う「神楽」が原点で、リハビリ中の患者の動きが神楽の舞を連想させることから名付けられた。

 このリハビリ専門施設には、一つユニークな特徴がある。

 それは支払いが「成果報酬型」である点だ。リハビリの開始時に患者とセラピストが一緒に目標を設定する。例えば「椅子から一人で立ち上がれるようになる」「歩行器で歩けるようになる」など。それを達成した場合に報酬を支払う仕組みになっているのだ。万が一目標を達成できなかった場合、報酬は必要ない。

「少しでも良くなる可能性があるなら、医療保険・介護保険の枠組みを超えてでも試してみたい。しかし、お金と時間を費やしても変わらなかったら…という不安を患者さんは抱いています。その不安を払拭するために成果報酬型を導入しました」

 VRを使ったリハビリで重要な役割を担うのは、患者を支えるセラピストの存在だという。機器の効果を最大限に引き出すために、理学療法士、作業療法士などが患者の動きや体の状況、認知機能を十分に把握し、疾患種別や目的に応じて動作の難易度を細かく調整しなければならないからだ。今後はセラピストの育成にも力を注いでいく方針である。

 現在13の特許を持つmediVRカグラ。経済産業省主催のジャパンヘルスケアビジネスコンテストでグランプリを受賞するなど国内外から注目を集めている。また、脳梗塞や脳出血だけではなく、パーキンソン病、認知症、慢性疼痛(とうつう)、脊髄損傷、脳性まひ、発達障害、うつ病、抗がん剤関連の副作用をはじめ数多くの効果が実証されている。

 大きな可能性を秘めたVR技術を使ったリハビリ。近い将来、医療の常識を大きく塗り替えるのは間違いないだろう。

(吉田由紀子/5時から作家塾(R))