申告が遅れるデメリットは、税金だけではありません。不動産の活用ができないという問題もあります。亡くなった親の名義のままでは取り壊しも売買もできず、モメている限り、延々とそのままの状態が続くわけです。最悪の場合は、親の名義のまま何十年も過ぎることがあります。

 それが動き出すのは、次の相続が発生したときです。つまり、モメていたきょうだいの誰かが亡くなることで、その子どもである相続人が「なんとかしなくては」と思い、冷静になってまとめていくわけです。

「いい相続だった」と思えるお手伝い

 もっとも、そこまでモメるのは例外的な事例であって、ほとんどの相続は相続税申告の期限内におさまります。ただ、おさまったとしても、モヤモヤが残ることは珍しくありません。

 税理士は遺産の分け方に口をはさむことはできませんが、税金の支払い方をアドバイスしたり故人の意思を伝えたりすることで、相続をなるべくスムーズに進めるお手伝いはできます。

 例えば、親が住んでいた実家に住み続ける人がいる場合には、「遺産分割協議がまとまらないと、税金の優遇措置である小規模宅地等の特例が受けられませんよ」と耳打ちします。

 意外に効果的なのが、モメそうだなと感じたら、早めの手当てとして“仮想敵国”をつくることです。仮想敵国とは税務署のこと。「モメると得をするのは税務署ですよ」と聞けば、誰だってわざわざ余分な税金を払うのはばかばかしいと思うでしょう。

 遺言書の付言事項に書かれた親の本音を示すことにより、相続人の心をほぐそうと試みることもあります。遺言書と聞くと、多くの人は遺産の分け方を描いた堅苦しい文書という印象を持っていることでしょう。確かに、そうしたドライな部分もありますが、そうでないウェットな部分もあることをご存知でしょうか。

 それが遺言書の「付言事項」です。遺言のメインの文章とは別に、親の本音ともいえる文章を書き込むことができる箇所です。例えば、娘さんに対して、「心優しい娘をもって私は誇りに思う」という一文を含めるだけで、娘さんは胸がいっぱいになり、相続で争おうという気がなくなります。

 もちろん、最終的な目的はきょうだいの精神的な意味での「相続格差」をなくすことです。「いい相続だった」と思って親の思い出や生き方を継いでいってほしいからです。