各国のリーダーが集まる場で
日本の政治家がまったく発言できない理由

2名Photo by H.K.

田内 競争原理が働かないというのはまずいですね。世界で必要とされるものが何かわからない。

 戦後から1980年代くらいまで、国を挙げて「どの産業に力を入れるべきか」ということが明確にあり、それに向かってみんなががんばっていました。でもその後、世の中が変わっても同じことを続けていて、世界に必要にされるものがわからなくなってしまった。

田原 宮沢喜一さんが、首相の時に「日本の政治家は、先進国首脳会議やG7でまったく発言できない」と言っていました。それは、英語が話せないからという意味ではなく、教育が悪いんだと、宮沢さんは言うんです。

 教育のどこが悪いのかと聞くと、日本の教育は小・中・高、そして大学ですら、教師は正解がある問題を出し、生徒は正解を答えないと叱られるという教育を受けている。だから政治家も正解を答えられなければ叱られると思っている。ところが、先進国首脳会議やG7で議題となるのは、正解がなくどう対処すべきかわからないような問題だからこそ、各国のリーダーが集まって話し合うわけです。

田内 私も先ほどから、田原さんの質問には正解を答えないといけないと思ってしまっています(笑)。

田原 数年前にNHKの(ハーバード大学・マイケル・サンデル教授が出演する)「ハーバード白熱教室」という番組がヒットして、正解のない問題をいろいろと取り上げていましたね。

教育への投資や子育て支援は
必ず将来の国力につながる

田内 私は先日、「公共」という高校の科目の教科書に、共同執筆者として携わらせていただきました。「公共」は今年からできた必修科目で、経済や法は公共空間をつくるのに必要なものであり、それを学ぶというもので、従来の「政治・経済」や「公民」を統合したような教科です。

 そのときに、今、田原さんがおっしゃったのと同じような話になりました。知識詰め込み型の教育からの脱却は、文科省でも試みていて、教育指導要領には、アクティブ・ラーニングや対話を重視せよという旨が記載されています。調べて自分で答えを探し、先生と生徒や生徒同士で対話をする。

田原 ただし、せっかく対話をさせても、その中身が、実は正解のある問題だったりすることもありますね。

田内 そうならないように、答えが複数ある問題を用意し、考えてもらうような教科書をつくろうとしました。知識詰め込み型にならないよう、初めに「疑問」を与える。たとえば、「子どもにはなぜ自由がないのか」とか「なぜお金はコピー機でコピーしてはいけないのか」ということを考えていく形です。

 執筆者の私たちも教育関係者も、ある程度、満足できる内容のものができたと思い、自信を持ってその教科書を現場の先生に見ていただいたのですが、その際、「この教科書は誰も買わないですよ」と言われてしまったんです。

 なぜですかと理由を聞くと、「教師の時間は非常に限られています。この教科書を使って子どもを教えるには、教師側は相当な準備をしなければなりません。教師にそのような時間はないんです」と言うんです。

田原 その教科書で教えるためには、教師側も勉強し、準備をしなければならない。しかし、本来、本業である教えることに時間を割けないほどに教師というのは忙しい。教師は授業以外にしなければならない仕事がやたらにある。中・高の教師で、1日の労働時間がだいたい11時間といわれていますね。

田内 そうですね、子どもに問いかけて考えてもらうことは、今回はメインからサブにすることで落ち着きましたが、そもそも教師に時間がなさ過ぎるという問題を何とかすべきですし、子どもや人材を育ててこそ、社会は成長し、社会の基盤ができるわけです。それなしにお金をどんなに貯めても、社会や経済において意味がありません。

田原 「お金を貯めておけばいい」というのが今の世の中では常識だけれど、お金があるだけでは世の中の本当の問題は解決できないという認識を広めなければならない。

田内 教育への投資などの社会保障は、国にとって厄介な荷物のように思われています。子どもが生まれ育っても、そのこと自体は、直接は国の収益として表れません。しかし、必ずそれは国の富、将来の国力につながるものです。そこに対して「財源がない」とか「子育て支援に充てるお金がない」という話は、本末転倒なのです。

後編(11月22日配信予定)へ続く