どんなにお金を増やしたところで
お金自体が働いてくれるわけではない

なぜ韓国のアイドルは世界に打って出ることができたのか?田原総一朗が元ゴールドマン・サックスの金利トレーダーに聞く、円安の背後にある真の問題田内学(たうち・まなぶ)
1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年、ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。2019年退職。中央省庁、自民党や議員連盟の各種会議では、財政、年金、少子化問題について提言を続ける一方、学校等でお金の教育についての講演を行っている。インターネット番組「経世済民オイコノミア」の司会。著書に『お金のむこうに人がいる』。

田内 極端な話、どんなに札束を握りしめても、高齢者だらけの社会になれば働き手がいなくなり、社会も経済も立ち行かなくなるからです。介護や医療の分野は、年間5万人ずつ、必要な人数が増えています。

 問題の根本は「お金をどうするか」ではありません。働く人の割合が減っていることこそが問題であり、どんなにお金を増やしたところで、お金自体が働いてくれるわけではありません。そこがわかっていなければ、お金を貯めたところで物価が上昇するだけです。

 人間が生きていくためには、生活必需品が必要であり、人が豊かになるためには、人を幸せにするためのモノやサービスが必要です。そして、そのモノやサービスをつくるためには、お金だけでなく労働力も必要です。

田原 しかし、日本は今、人口、それも労働人口が減少していますね。少子高齢化で寿命が延び、年金をもらう側が増え、払う側がどんどん減るから破綻する。

 国内で働く人が減っているなら移民・難民を受け入れればいいという論があります。ただ、欧米では、移民・難民が増えすぎたことで、自国の人間の失業者が増えた。イギリスでは、EUに加盟して、移民が急増したために国内の失業者が増え、政権が揺らいだ。それでイギリスはEUから離脱しましたね。

 日本は島国で、移民・難民には冷たい政策を行っていることもあり、そうした問題は今のところ起きていない。それもあって政権も安定しています。でもこのまま移民・難民を受け入れず、かつ、少子化も解決しなかった場合には、日本の人口は毎年60〜70万ずつ減っていきます。

田内 これまでは日本の人口はどんどん増えていましたし、働き手が足りなければ国の外に求め、発展途上国を食い物にする形でフロンティアを広げていきました。労働力の制限はなかった。でも、その人口が徐々に減ってきており、人材も枯渇し始めている。これが最大の問題です。

田原 財政出動(財政資金を公共事業などに投資し、景気の安定・底上げを図る経済政策)に関してはどう思われますか? 今、MMT(※)の提唱者たちは、さかんに「財政出動してもよい」「国債をどんどん発行せよ」と言っていますね。一方で、財務省は「MMTはけしからん」と言っていますね。田内さんはMMTではないんですか?

※MMT…現代貨幣理論。とてもざっくりと解説すると、独自通貨を持つ国は、借金をいくらしても財政破綻は起きないと説く経済理論

田内 必要なことには積極的にお金を使うべきだと思いますが、無駄なことにお金を使っていいとは思いません。MMTの前提は「生産力が国の中にある」ことです。私は、働き手や生産力が国内で減っていることこそが問題だと思っているので、この点では同じ見方ではありません。

 以前、自民党で財政政策検討本部長をされている西田昌司(参議院議員)さんとYouTubeで対談したとき、おっしゃるとおり、「どんどん国債を発行して財政出動すべし、財務省はけしからん」という(MMTも含む)積極財政派と、財政収支が健全であることを重視して国債をどんどん発行することを良しとしない緊縮財政派という対立構造があるという話になりました。

 そこで考えるべきは、今はインフレになっているということです。