「アイデアが広がっていかない」「最初に思いついた発想にしがみついてしまう」という人は少なくない。「自分なりの妄想」を手なづけ、圧倒的な結果を出している人たちは、いったいどんなふうに考えているのだろうか──。そのための具体的手法を解説した戦略デザイナー・佐宗邦威さんの著書『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』より、一部を抜粋してお届けする。

発想力がある人はなぜ「ノート」にメモしないのか?Photo: Adobe Stock

「組替力」を飛躍的に高める「可動式メモ」の技術

 前述の問題を回避するために、ぜひやっていただきたいのが、「可動式メモ」である。まずは、組替を行うためのキャンバスを用意する。これはよくあるB4サイズのノートでもいいし、大判のスケッチブックやバタフライボード、模造紙、あるいはデスクや壁でもかまわない。

※前回記事:
「箇条書きメモをする人」がハマる落とし穴とは?

 ポイントは、そのキャンバスに直接メモを書き込まないこと

 メモは別途用意した正方形のポストイットなどに書くようにする。

 このとき、「ポストイット1枚に1つの情報」を意識しよう。ポストイットに箇条書きをすると、結局同じ問題(=組替できない)が起きてくるからだ。

 思いついた順にポストイットを書き、キャンバスに貼っていく。この段階では、グルーピングなどはあまり考えないで、ペンを動かすことに集中したほうがいい。分解と再構築のプロセスは「分ける」のが基本だ。

 つい箇条書きメモをしてしまう習慣をやめ、最初からこのように「動かせる」かたちでメモをまとめるようにすると、つねに発想の「組替」モードをオンにすることができる。

 僕は読書メモなどもすべて、ポストイットに書いてノートに貼っておくようにしている。まったく関係ないアイデアを考えているときでも、「あ、この話はあの本に出てきた話と関係があるな」と思えば、ポストイットを別のページから移動させるだけで事足りるからである。

 情報のカット&ペーストが可能なワードやパワーポイントなどであれば、これとほぼ同じ操作はPC上でできてしまうのではないかと思う人もいるだろう。たとえば、テキストボックスなどのオブジェクトに文字を貼りつけて、オブジェクトごと「動かす」というやり方はどうだろう?

 残念ながらこれにも欠けるところがある。モニタ画面内に収まりきらない情報は、視野の外に追いやられてしまうし、情報が多くなってくると、全体を見渡すために文字サイズを小さくせざるを得ない。これらは組替の作業にとっては致命的な欠点だ。

 とはいえ僕は、決してアナログ至上主義を唱えたいわけではない。少なくとも現段階では、「可動性」「一覧性」の両面において、この「可動メモ術」を凌駕するデジタルツールはリリースされていないというだけの話である。

 さらに、このように情報の断片をカード化すると、視覚的な情報とテキストデータとを同一平面上で扱えるというメリットもある。ポストイットを並べて貼っているところに、関係する写真やイラストを貼ってもいいし、具体的なプロダクトをテーブルのうえに置いて、そのまわりをポストイットのメモで取り囲んでもいい。

 このとき注意してほしいのが、ポストイットに手書きするときには、なるべく太めのサインペンなどを使うことだ。あまり小さな文字で細々と書いてしまうと、全体を眺めたときに情報が目に入ってこなくなる。また、見づらい手書きテキストは、写真などの視覚情報に埋もれてしまいがちだ。ポストイットに手書きするときは「太く大きな文字で書くこと」を意識しよう。

 最後に、「箇条書きの習慣が染みついているな」と感じる人には、「白紙」のポストイットを貼りつけたキャンバスをつくることをおすすめする。

 たとえば、1ページにつき正方形のポストイット6枚を並べたノートを、まずつくってしまうのである。これくらい徹底した「余白づくり」をしないと、なかなかメモの習慣は変えられないからだ。

 なお、組替プロセスを前提としたノート(くみかえノート)も発売されているので、この点に苦手意識がある人は試してみてほしい。