メキシコ「政策金利10%」でタカ派姿勢維持も、利上げペース鈍化が招くペソ安リスクPhoto:PIXTA

メキシコ経済は拡大が続き、コロナ前の水準を回復した。タカ派に傾斜したFRB(米連邦準備制度理事会)に追随する形で中央銀行は利上げを継続してきた。ここにきて利上げペース鈍化の公算が出てきているが、拙速なペース変更は通貨安、インフレ再燃を招きかねない。(第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 西濱 徹)

FRBのタカ派傾斜で
新興国からの資金流出加速

 足元の世界経済においては、中国による『動態ゼロコロナ』戦略への拘泥が中国経済のみならず、サプライチェーンの混乱を通じて中国経済との連動性が高い新興国景気の足かせとなっている。

 さらに、ウクライナ情勢の悪化による供給懸念の高まりを受けた幅広い商品市況の上振れの動きが世界的なインフレを招くなか、FRB(米連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めている。

 コロナ禍からの景気回復が続いた欧米など主要国景気も、物価高と金利高の共存により頭打ちする動きがみられる。結果、世界経済は全体的にスタグフレーションに陥る懸念が高まっている。

 また、FRBなどのタカ派傾斜の動きは国際金融市場における世界的なマネーフローに影響を与えており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱(ぜいじゃく)な新興国を中心に資金流出が加速する動きにつながってきた。

 FRBの1990年代の利上げ局面において、隣国メキシコやブラジルなど中南米のほか、タイやインドネシア、韓国などアジアで通貨危機が発生し、その後、ロシアの経済危機など連鎖的に危機に発展した経緯がある。

 しかし、当時のこれらの国々は通貨を米ドルにペッグ(固定)する固定相場制を採用していた上、投資資金の受け入れを目的に自国通貨を実勢に比べて高水準で固定するなど『背伸び』をしていた。

 FRBの利上げ実施に伴う自国からの資金流出を受けた通貨安圧力に対して、当局は自国通貨買いドル売りの為替介入による通貨の安定を図る必要に迫られたことで、外貨準備が枯渇し、結果として自国通貨の切り下げに追い込まれた。

 他方、その後はこれらの通貨はいずれも変動相場制に移行しており、制度的には為替介入による通貨の安定を図る必要性はなくなっている。