「資産所得倍増」と「相続税・贈与税」
一見、関連性がないようだが…

「資産所得倍増計画」は「貯蓄から投資へ」のスローガン通り、言ってしまえば「投資推進プラン」である。資産所得とは、個人が所有する資産を元手にして新たな資産を生むこと、すなわち利子や配当、賃貸料などから得る不労所得のことだ。

 政府が立ち上げた新しい資本主義実現本部の資産所得倍増分科会では、賃上げによる勤労所得増加に加え、家計が保有する1000兆円の現預金を投資につなげ、資産所得を増加させようとの方針を打ち出した。具体案として、「少額投資非課税制度(NISA)」の恒久化や抜本的拡充、「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の制度改革を挙げている。

 さて、そこでだ。1000兆円の預貯金はどのような世帯が保有しているのかということだ。いくら預貯金を投資に振り向けたくても、十分な貯蓄額がなければ、ない袖は振れない。

●純貯蓄額が最も多いのは60~69歳世帯

 総務省統計局『家計調査報告(貯蓄・負債編)-2021年(令和3年)平均結果-(二人以上の世帯)』による、「世帯属性別にみた貯蓄・負債の状況」をグラフで見ると以下の通りである。

世帯属性別にみた貯蓄・負債の状況出典:総務省統計局『家計調査報告(貯蓄・負債編)-2021年(令和3年)平均結果-(二人以上の世帯)』 拡大画像表示

 貯蓄額が負債額を上回るのは世帯主50歳以上の世帯で、なかでも純貯蓄額2327万円と最も多いのが60~69歳世帯だ。一方、住宅ローンや教育ローンなどの負債超過は世帯主40歳未満、次いで40~49歳となっている。つまり、預貯金を投資へと変換できるのは高齢世帯ということだ。

●「NISA」「iDeCo」投資させたいのはどの世代か

「NISA」の恒久化や抜本的拡充については、まだ具体策が決定されていないが、令和5年度税制改正に向けて、金融庁は以下の点を要望している。

・制度の恒久化
・非課税保有期間の無期限化・年間投資枠を拡大し、弾力的な積立を可能に
・非課税限度額の拡大(簿価残高に限度額を設定)・安定的な資産形成を促進する観点から、長期・積立・分散投資によるつみたてNISAを基本としつつ、一般NISAの機能を引き継ぐ「成長投資枠(仮称)」を導入
・つみたてNISAの対象年齢を未成年者まで拡大

「つみたてNISA」は、現行制度では非課税期間が最長で20年間。60歳で始めるなら80歳まで、65歳なら85歳までということになる。「人生100年時代」になったとはいえ、厚生労働省によれば、21年における日本の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳。高齢者向けとは考えにくい。

「iDeCo」は、22年5月から加入可能年齢の上限が現行の60歳までから65歳までに引き上げられた。しかし、原則として、すでに老齢年金を受給している人は加入できない。そうした条件を踏まえると、こちらも高齢者向けとは言い難い。

 となると、「NISA」や「iDeCo」のメインターゲットは59歳以下のいわば“現役世代”となるが、就業率の高い20~40代はローンなどの負債額が貯蓄額を上回っている。この世代を投資に振り向けるなら資産の世代間移転、すなわち親世代の高齢者からの生前贈与が不可欠ということになる。

●少額投資非課税制度が普及すると税収が減少

 それならば、より生前贈与がスムーズに行えるようにすべきなのに、なぜこのタイミングで「相続税と贈与税の一体化」なのか?との疑問も湧く。そこには国庫の事情も関連すると考えられる。

 周知の通り、我が国の国庫は歳出が歳入を上回り、財政赤字が20年間も継続している。令和4年度当初予算では、租税および印紙収入が65兆2350億円で歳入の約61%を占める。これには預貯金による税収や相続税も含まれる。

「NISA」などの非課税制度が広まれば、預貯金の税収が6兆円余り失われると試算する専門家もいる。失った税収分を、相続税や贈与税で回収しようという意図もあるのではないかと推察する。