赤ちゃんにミルクを与える男性写真はイメージです Photo:PIXTA

男性の育児休暇取得率の向上を目指し、10月から新たに開始された「産後パパ育休」と「育休の分割取得」。育児世帯には福音といえる新制度だが、具体的にはどう変わるのだろうか。連載『医療費の裏ワザと落とし穴』の第250回では、男性育休取得の後押しと期待される制度改定についてみていこう。(フリーライター 早川幸子)

既存の育休制度をさらに拡充する
「パパ育休」の制度とは?

 値上げの秋。食品や日用品、燃料費などの一斉値上げが家計を直撃している。医療費も、一定以上の所得のある75歳以上の人の窓口負担が2割に引き上げられたり、紹介状なしで大病院を受診したときの定額負担が引き上げられたりと、増加傾向にある。ただし、医療費は、すべての世帯で値上がりしているわけではない。

 近年の社会保障制度改革は、子どもから高齢者まで幅広い世代が安心を得られるように、世代間の格差を縮小し、公平な制度へと転換していくような見直しが行われている。現在進められている医療制度改革では、一部の高齢世帯の負担を引き上げる一方で、子育て世代の社会保障費の負担を軽減する内容が盛り込まれている。そのひとつが育児休業中の社会保険料免除要件の緩和だ。

 日本の総人口は、2008年の1億2808万人をピークに、2011年以降は一貫して減少しており、2022年11月1日現在(概算値)は1億2485万人(総務省統計局「人口推計」)。今後も人口減少は続き、2065年には総人口が9000万人を割り込む見込みだ。そして、人口に占める65歳以上の人の割合は38.4%になる一方で、15~65歳未満の生産年齢人口は51.4%まで減少する。

 少子化が進行した人口減少社会で、危惧されるのが労働力不足だ。このまま何も対策を講じなければ、民でも、官でも、人手不足によって社会経済が回らなくなり、社会保障の負担と給付のバランスも大きく崩れる可能性がある。

 今後、労働力を確保していくためには、労働に携わる人の枠をこれまでよりも広げ、年齢や性別に関係なく、働くことを希望するすべての人が、その時々の状況に応じて、自分に合った働き方ができる社会に転換していく必要がある。

 特に労働力として期待されているのが、これまで出産や育児、介護などのために、社会参加を阻まれていた女性たちだ。彼女たちが出産や育児などによって離職することを防ぎ、長く働けるようにするためには、単に掛け声だけではなく、制度面から、仕事と生活の両立(ワークライフバランス)を支援することが求められる。

 そこで、2021年6月に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」が改正され、2022年4月から段階的に育児休業に関する制度が見直されることになったのだ。

 制度改正の背景にあるのが、男性の育児休業の取得率の低さだ。

 女性の育休取得率は年を追うごとに増加し、2007年以降は8割以上の人が利用している一方、男性の育休取得者は女性に比べるとかなりの低水準にとどまる。2021年度でも13.97%の人しか取得していない(厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」)。そこで、企業に対して雇用環境を整えることを義務づけるとともに、制度を利用しやすくするような見直しを行うことで、男性の育休取得率を2025年までに30%に引き上げることになったのだ。そのための新たな制度も10月1日からスタートしている。その内容を次ページから詳しく見ていこう。

●10月1日から「産後パパ育休」「育休の分割取得」が可能に
●育休中の社会保障費の免除要件も緩和された