スローガン「貯蓄から投資へ」が危うい理由とは? 夫を雇っている会社は妻を雇っている会社に「フリーライド」している? お金で問題を解決しているように見えているが実際は? 社会に漂う「将来への不安」を払拭するために個人でできる簡単なアクションとは? ジャーナリストの田原総一朗氏と、元ゴールドマン・サックスの金利トレーダーであり、「人」を中心にしたユニークな経済の入門書『お金のむこうに人がいる』の著者の田内学氏が対談。「お金」とは何なのか? 経済や金融の本質と仕組みに触れながら、現代社会の問題の核心をつく2人の対談の後編をお届けする。(文/ライター 奥田由意 編集/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)
危ういスローガン「貯蓄から投資へ」
では本来の「投資」とは?
田内学(以下、田内) 前回、インフレや円安、年金問題は、お金だけで解決できる問題ではなく、その背景には日本の人口減少や人材・労働力不足があり、その根源は教育や子育て支援の問題だという話を紹介しました。
金融庁は「金融教育」を国家戦略にするとまで言っていますが、これを「社会の問題の多くはお金さえ増えれば何とかなる」「みんながお金の増やし方を学べば問題は解決するはずだ」と履き違えて捉えてしまうと大変です。社会のさまざまな問題というのは、お金だけあっても実は全然解決できないんです。
1934年、滋賀県生まれ。1960年に早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「城戸又一賞」受賞。早稲田大学特命教授を歴任(2017年3月まで)、現在は「大隈塾」塾頭を務める。「朝まで生テレビ!」「激論!クロスファイア」の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。近著に『コミュニケーションは正直が9割』(クロスメディア・パブリッシング)、『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(冨山和彦氏との共著、KADOKAWA)など。
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田原総一朗(以下、田原) なぜ解決できないんですか。
田内 「貯蓄から投資へ」というスローガンがありますね。
しかし、本来「投資」とは、「何かを勉強する自己投資」「図書館を建てる公共投資」などのように、未来のためにすることです。将来の生活をより良くするために何かをつくったり、研究したりすることです。自分たちの現在の生活が豊かになるためにものを使う「消費」とは違う活動なんです。
でも、このスローガンや多くの「投資教育」では、投資の中のたった一つの側面でしかない「資産運用」しか見ていません。「投資」という箱にお金を投じるだけで、経済が成長すると信じている。
けれども、経済が成長するときの「投資」というには、お金をたとえば、薬品開発やロボティクス研究などへ回し、それを使って発展した技術や製品を、将来、みんなが使うことで、生活が豊かになる。その結果として、企業も利益が出て、配当なり金利なりでお金が還ってくる。「未来への投資」こそが、本来の「投資」なはずです。
田原 田内さんは、社会全体で子どもを育てるという「未来への投資」が必要なのに、日本政府の少子化対策については論点がずれている、とも主張されていますね。
田内 はい。従来の語り口には違和感を覚えています。