同時に前田の背後に鎌田、前半は右サイドハーフだった伊東純也(スタッド・ランス)を横並びで配置した。最初にプレスをかけにいく人数を「2」から「3」へと増やし、さらにドイツのどの選手に対して、日本の誰がプレッシャーをかけるのかをはっきりさせた。
いわゆる「はめる」という状況が作り出されたことで日本から迷いが消え、勇気や勇敢さが前面に押し出されるようになった。日本が先に動いた効果はてきめんだったと長友は振り返る。
「相手の方がけっこうあたふたしていた。日本が戦術を変えたのがすべてでしたね」
森保監督はさらにMF三笘薫(ブライトン)、FW浅野拓磨(ボーフム)、MF堂安律(フライブルク)、MF南野拓実(モナコ)と攻撃的な選手を次々に投入。最終的に左右のウイングバックに、ドリブルを武器とする三笘と伊東が配置される超攻撃的な布陣でゴールを奪いにいった。
後半にピッチに立った選手たちや、一夜明けた24日にメディアに対応した森保監督のコメントを踏まえれば、超攻撃的な布陣はぶっつけ本番だった。しかし、ドイツ戦へ向けた練習やミーティングのなかで、苦境を好転させるための3バックへのスイッチはあると森保監督は伝えていた。
そうした積み重ねがあったからか。後半へ勝負をかけるための指揮官の決断を、長友は「驚きはなかったし、違和感なくプレーできた」と振り返り、さらにこう続けた。例として挙げたのは、14年のブラジル大会でグループステージ敗退を喫したザックジャパンの戦いだった。
「ザックさんのときもスタメンをある程度固定して、かなり強いチームに仕上がっていたのにW杯で結果を出せなかった。僕の経験ではうまくいかないときに立て直す方法を、いくつか用意していた方がいいと思うんですよね。それは選手起用であり、戦術的な部分でもある。それらに幅といったものがないと、相手に対策を練られてうまくいかない場合にどうにもならなくなってしまうので」
カタール現地サポーターも
日本を熱烈に応援
試合は徐々にペースをつかんだ日本が圧力を強めていく。会場となったハリーファ国際スタジアムを埋めた、日本人以外の現地サポーターたちも時間の経過とともに日本を熱烈に応援しはじめた。三笘との交代でベンチへ下がっていた長友は、心が震えてくるのを感じずにはいられなかった。
「人間は心で動いてると考えたときに、訴えるものがあったと思うんですね。日本は本当にいいチームだと。みんなで戦っていると。一つになった心が、見ている方々に感動を与えたんだと」
同点ゴールが生まれたのは後半30分。三笘の突破から南野が抜け出し、ペナルティーエリア内の左側から鋭いクロスを放つ。ドイツの守護神マヌエル・ノイアー(バイエルン・ミュンヘン)が何とかはじくも、誰よりも速く詰めてきた堂安が蹴り込んでゴールネットを揺らした。
さらに38分には、自陣からのロングボールに抜群のタイミングで浅野が抜け出す。鮮やかなトラップから縦へさらに加速し、そのまま角度のない位置から豪快な逆転弾を突き刺した。
後半途中からボランチに回り、パスの配球役やつなぎ役を務めた鎌田が胸を張る。
「一生後悔するような前半の試合内容を、森保さんがシステムを変えて、その上で自分たちが勇気を持ってプレーしたことで変えられた。日本代表には普段はいいリーグでプレーしている選手が多いので、ああいう形で対等に渡り合えば、どのチームとでもいい試合ができると証明できた」
ああいう形とは、つまりは後半から変わったシステムと選手たちになる。そして、長友がチーム内に浸透させようとしている「Coraggio」に図らずも鎌田も言及した。
積極的かつ攻撃的な采配を介して、前半と後半とで日本をまるで異なるチームへ変貌させ、勇気や勇敢さを引き出して劇的な逆転勝利に導いた。世紀の番狂わせを導いた最高の立役者といっていい森保監督はしかし、一夜明けたメディア対応のなかでこう語っている。
「このグループを戦っていく上では大きな勝ち点3だと思っていますけど、どのようなシミュレーションをしても、決して安心できる勝ち点3ではない。次が大事だと思っている」