経済変数とマーケット変数の
「関係」が不安定

 前言を翻すようで恐縮だが、経済は「全く予測できないわけではない」。国内総生産(GDP)や鉱工業生産指数、あるいは雇用などについて、われわれは将来の予想数字を持っているし、それが現実から極端に離れているわけでもない。だから、つい当てにしてしまうという意味で、「ある程度当たる予測」にはかえって厄介な面がある。

 しかし資産運用との関係で言うと、経済の変数と、マーケットの変数(例えば株式の期待リターン)との間の「関係」が不安定であることが、経済予測からマーケット予測を構成し、その上で運用戦略を考えようとするアプローチへの障害になっている。

 なぜ両者の関係が不安定なのかに関しては、複数の理由が考えられる。

 例えば、GDPに代表される景気に関する来年の数字を「当てる」ことができても、来年の株式のリターンの予測に役立てることができるかは大いに疑問だ。

 一つには、株式のリターンに影響する要素がGDPや景気以外にもあるからだろうか。だが、われわれには多変量を解析する手段があるはずだ。

 しかし、複数の変数と株式のリターンとの関係が分析できても、例えば、現在の株価に将来の予想情報がどの程度「織り込まれているか」という別の問題がある。これについての「程度」が安定しないと、経済変数の将来予測からマーケット関係の変数を予想することは難しい。

 また、仮に経済変数とマーケット変数との間の関係がある程度分かったとすると、この情報に対して市場参加者の行動が変化してしまうので、「将来のリターン」の予測は再び困難になってしまう。

 このように、マーケットの仕組みを考えると、経済予測から始めて市場のリターンを予想しようとするアプローチは、複数の関節が緩くて制御の効かないマジックハンドで離れた場所にある物を取ろうとするくらいの難事であることが想像できる。実際にエコノミストは、ゲームセンターのUFOキャッチャーほどにも役に立たない。

 エコノミストの側は悔しいから次のように言う。

「他の条件を一定とすると、○○が××なら、株価は△△になってもおかしくない」等々。しかし、現実の世の中では「他の条件」はじっとしていない。

 かくして、誰も傷つかないし、しかし誰も役に立たない、独特の均衡状態が生まれる。