新型コロナウイルスの流行に伴い、「ワクチンを打ったら死んでしまう」「コロナは糞口(ふんこう)感染する」といったデマが相次いで世間に広まった。なぜ、コロナに関連した多くのデマやフェイクニュースが飛び交ってしまったのか。『新型コロナの不安に答える』(講談社現代新書)の著者、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之氏に、デマやフェイクニュースからどのように身を守るべきかについて話を聞いた。(清談社 小森重秀)
コロナをめぐるデマは
なぜ広まったのか
中国・武漢で新型コロナウイルスの感染者が最初に発症したとされる日から、まもなく3年が経過しようとしている。コロナの流行とともに世間で飛び交っていたのが、コロナウイルスに関するデマやフェイクニュースといった根拠のない曖昧な情報だ。
大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之氏によると、根拠に乏しい情報拡散の最も大きな原因は、よく知らない感染症に対する“恐れ”や”不安”といった感情だという。
「医師の我々の間では、コロナウイルスが風邪ウイルスの一つであることはよく知られていました。世界的には、約20年前にSARS(重症急性呼吸器症候群)、そして約10年前にはMERS(中東呼吸器症候群)が大流行しました。いずれもコロナウイルスの一種が原因で発症する感染症で多くの被害を及ぼしましたが、日本には入ってこなかったんです」
1918年に流行したスペイン風邪以降、日本人はパンデミックを経験してこなかった。日本人の多くがコロナウイルスに接する機会がなくパンデミックの耐性がない状況下だったため、新型コロナウイルスを恐れて日本人の多くが一種のパニックに陥ったのだ。
「コロナウイルスに関する情報が十分に日本国民に伝わってこない状況で、基礎知識のない一般人も、命を脅かす未知のウイルスに対処しなければいけない。そう考えると、不安や心配を和らげる『確からしい』情報に頼りたくなるのでしょう」
またコロナワクチンに関しては、「新しいもの」という認識が日本人の恐怖心につながってしまった可能性がある、と宮坂氏は語る。
「新型コロナウイルスの流行からわずか1年ほどで開発したワクチンだと思って『打ったら何が起こるか分からない』とワクチンに対する忌避感を抱いた人もいたでしょう。実は、メッセンジャーRNAワクチンというコロナワクチンの仕組み自体は2000年初頭から開発が進んでいて、技術的には積み上げられてきたものだったんです」
新しいものは検証が十分になされていないという思い込みも働き、日本国民の多くはワクチンの情報を冷静に受け止めきれない心理状態だったのだ。