アメリカと日本の「性教育」の実状
星:プレコンセプションに関連し、性教育についても伺っていきたいと思います。
日本の性教育では、「避妊や性感染症などに関する安全な性行為」という話があっても、「どうやって健康的に妊娠していくか」についてはあまりフォーカスされていませんね。
三戸:そうです。生物学的な事実や科学的根拠に基づいた妊娠・出産、プレコンセプションケアの知識がもっと普及されるべきです。
アメリカでは、科学的エビデンスに基づき、プレコンセプションケアによってより健康な妊娠をサポートしようという取り組みが、2006年、世界初の政策として行われました。
当時のアメリカは、赤ちゃんの形態異常や早産が多く、原因を調査したところ、妊娠前の肥満や高血圧・糖尿病といった生活習慣病が関係していることがわかったのです。
研究が進んだ現在では、妊娠を考える前の若い世代の知識や健康増進が注目されています。
星:アメリカでのプレコンセプションケアの普及についてどうお考えでしょうか?
三戸:知識を得るための教材は素晴らしいのですが、現状ではまだまだ当事者にうまく届けられていません。
多言語を話す多様な人種に加え、医療へのアクセスも人によって違うこともあり、いかに当事者たちに知識を届け、行動変容につなげていくかが課題です。
このリテラシーを高めるために、アメリカではインフルエンサーが健康的な生活をして、その様子を発信する取り組みがスタートしています。
星:医学会などでは、知識を広めていくプログラムが必要という認知が広まっていく中で、実際にプログラムができつつあります。
今後いかに当事者に根づかせていくかがポイントですね。
対する日本はどんな状況でしょうか?
三戸:日本も、まだまだ多くの課題を抱えています。
プレコンセプションケアを広めていかないといけない領域はたくさんあり、早い段階からの教育に加え、職場での教育、そして地域における保健サポートサービスなども挙げられます。
プレコンセプションケアは、より健康に生きるために必要なヘルスケアなので、妊娠・出産やジェンダーに関係なく、みんなに広まっていくべきです。
しかし、実態は医療者もプレコンセプションケアについていけていない部分があります。
これから妊娠を希望する女性や妊婦の診察を苦手とする医療者は、実は少なくありません。
私もその一人でした。
医学教育の中で改善していくべき課題が多々あります。
特に日本では、ベースとなる性教育が国際水準に到達していないのが大きな課題です。
先進国の多くでは、5歳からユネスコの国際セクシャリティ教育が導入されており、日本でも今後、性教育を含めた人間学や、前思春期からのプレコンセプションケア、ヘルスリテラシーの向上など、包括的に進めていく必要があります。
星:なるほど。プレコンセプションケアは、性別によらず、幅広い世代で学んでおくべき大切なことですね。
次回の対談では、実際に「プレコンセプションケア」を取り入れていくために、何から初めていけばいいか。また、次世代にそれをどのように伝えていけばいいかについてお話しいただきます。乞うご期待ください。