CEOの役割を全うするための3つの仕事

 CEOの役割である「結果を出し続けること」を全うするための主要な仕事は、次の3つに分解できる。

(1)短・中・長期の未来像を描く
(2)描いた未来像へステークホルダーを約束した結果まで引き上げる行動
(3)後継者を育成する

 CEOは、誰かに未来を与えられることはなく、自ら未来を求めなければならない。従って、自らの本能(母性本能、生存本能、創造・進化本能、好奇・冒険本能など)を解放し、素直な心で世界中の新情報に触れ、一つ一つの情報に対して自身が無意識的にどう反応したかを把握し、意識的にどう反応していくかを決断することとなる。そしてCEOは、無意識下に蓄積された情報を絶えず時代の要請に応えるかたちで更新し続けるとともに、決して思考を止めず、意識下にある信念をさらに強固なものへと更新し続けなくてはならない。

 CEOは、苦言を呈してくれる人、注意してくれる人、議論を戦わせる人が周囲にいないため、裸の王様や時代錯誤、暴走・独断専行に陥りやすい。従って、良質なインプットを多岐にわたって求める必要がある。

 粒よりのメンバーで構成されたコミュニティに参加して議論を戦わせるのもいい。ソートリーダーシップ(書籍出版など情報革命以前から強力な認知媒体とされてきた発信手段を使って、特定のテーマや課題について自説を開陳し、リーダーシップを発揮し、広く社会全体からフィードバックを得るなど)を通じた社会との対話も有効である。

 そうして得たインプットに基づくアウトプット、アウトプット後に生まれた脳の余白へのさらなるインプット、再度のアウトプット……といったサイクルを回していくことで、無意識下の情報の絶えざる更新や、信念の持続的強化が可能になるのである。

 こうした行動を日々継続することが、ユニークな未来像を描くこと、描いた未来像へステークホルダーを約束した結果に引き上げる行動の原動力となり、結果を出し続けることにつながっていく。

 また、経営とは結果を出し続ける行動であること、経営を行い継ぐCEOにも寿命という逃れられない制約があること、そして、経営の破綻や継続困難は多くのステークホルダーに多大なる不利益を与えることなどから、後継者の育成も忘れてはならない。仮に、自身は、通例に従い長期政権ではなく短期政権で任務を全うすることが求められていたとしても、後継者を育成することがCEOの役割であることに変わりはない。海外には、在任中いかに傑出した結果を導出しても、後継者の育成に失敗したためにCEO失格の烙印を押される企業もあるほどである。 

 CEOが置かれた環境によってはビジネスモデル固有の仕事や組織固有の仕事が発生するかもしれないが、CEOの役割である結果を出し続けることを全うするための主要な仕事はこの3つに尽きる。CEOは、この3つの仕事を中心に、ROIの観点から幹の仕事と枝葉の仕事をシンプルに整理し、自身の得意不得意(CEOの主要な役割を得意とするとともにマルチタスクに長けているなど)も考慮したうえで、劣後順位・優先順位を決断し、有限で希少なCEOの時間を、CEOが行うべき仕事に差配すべきである。