ソニーPhoto:Diamond

「当時、ソニーから見たら松下電器や富士通という会社は、ソニーとは比べ物にならないくらい大きな会社でした。ソニーが何となくライバルだと思っていたのは、パイオニアやビクターなどの音響機器メーカーで、まだそういう時代だったんです。僕は個人的には松下幸之助さんをとても尊敬していたから、松下電器の研究を随分としました。そこから僕が出したのは、“すべてにおいてソニーは松下電器に劣っている”という結論でした」。
『人生の経営』(出井伸之著・小学館新書)から、一部抜粋し編集

大賀典雄さんの助けでCDを実用化

 僕がオーディオ事業部長だった当時、助けてくれたもう一人が、大賀典雄さん(当時副社長)でした。大賀さんが光学式ビデオディスクの技術を持つオランダのフィリップスにつないでくれて、共同開発のような形でCDの実用化にこぎ着けました。

 このCD開発のときに、確信したことがあります。「サラリーマンこそ、挑戦すべきだ」ということです。

 僕はよく、「独立したい」「起業したい」と言う若いソニー社員に、「君はいい家に飼われているウサギみたいなものなんだよ」と話していました。「ライオンなんて見たことがないだろう」と。

「会社を辞めて起業しようと思っても、外にはライオンやらトラやら猛獣がうろうろしていて、すぐに食われてしまう。外では誰も守ってくれないんだよ。だから、もう少しソニーの中で頑張って経験を積め」

「会社を辞めるな」と説得するなんて、出井らしくないと思いますか?でも、まだ経験やスキルが足りないように見える若い社員に対してはこう言っているのです。まず会社の中で経験を積めと。

 会社の中での挑戦なら、先輩方がバックアップしてくれるし、何かあっても会社が守ってくれる。仮に失敗して大きな損失を出しても、自分が破産して路頭に迷うこともない。だから、サラリーマンこそ、思い切った挑戦ができるのです。

 実をいうと、「挑戦すべき」という積極的な理由だけでオーディオ事業部長への“挑戦”を決めた訳ではないんです。僕の方には挑戦せざるを得ない事情があった。