ロシア・ウクライナ戦争への対抗措置として、ロシアが欧州への天然ガス供給を削減したことにより、欧州経済はエネルギー価格の高騰や物価上昇に苦しんでいる。果たして欧州は、この苦境から抜け出せるのだろうか。特集『総予測2023』の本稿では、2023年の欧州政治経済で着目すべきポイントを紹介する。(ニッセイ基礎研究所 伊藤さゆり)
欧州経済への読みが甘かった
ロシア・ウクライナ戦争
2023年の欧州経済は、1年前にはまったく予想されていなかった高インフレ、低成長で滑り出すことになりそうだ。新型コロナウイルス感染拡大からの順調な回復というシナリオは、ロシアによるウクライナへの侵攻で大きく狂ってしまった。ロシア・ウクライナ戦争のリスクと、それが欧州経済に与える影響の読みは甘かった。
ロシアへの制裁とウクライナ支援について、欧州は米国や日本などの国と足並みをそろえた。制裁はロシアの継戦能力を着実に低下させているが、即効性はない。
これに対しウクライナ支援は戦闘能力を向上させているが、西側対ロシアの全面対決を回避すべく、戦闘の行方を決定づけるような支援は控えられている。結果として戦争の長期化につながり、先行きの不透明感が払拭できない。
ロシア・ウクライナ戦争が欧州経済に大きな影響を及ぼすルートとなっているのが、ロシアの対抗措置、とりわけパイプラインを通じた天然ガス供給の削減だ。
欧州側はロシアの戦費に直結するエネルギーへの収入に打撃を与えたい。その一方で、「脱ロシア」のためには、エネルギー関連のインフラ整備に時間がかかる。欧州連合(EU)はロシアがウクライナに侵攻した当初、脱ロシアの目標時期を27年に据えていた。
しかし、ロシアにはEUが必要なだけの時間的猶予を与える理由はない。その通り、欧州への主要なルートとなってきたロシアとドイツを結ぶパイプライン「ノルドストリーム」を通じたガス供給は、8月に停止した。
これを受けて欧州市場の天然ガスの価格は急騰。EUの電力卸売価格はガスに連動するため、光熱費も急上昇した。コロナ禍でじわじわと進んでいたインフレが加速してしまった。
次ページからは、欧州経済を苦しめるエネルギー価格高騰、インフレ、金利上昇の「三重苦」の行方、EU盟主のドイツが「トラブルメーカー」になる理由について、伊藤氏が徹底解説する。