セガの人気ゲームシリーズ「龍が如く」の立役者・名越稔洋氏。2021年にセガを退社し、「荒野行動」で知られる中国のゲームメーカー、ネットイースゲームズの出資を受けて独立した。その決断の裏にはどんな思いがあったのか。特集『総予測2023』の本稿では、日本有数の巨大タイトルの立役者が見る、日本のゲーム業界の課題について余すところなく聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
任天堂を上回る大きさと速度を持つ
中国ゲーム企業「ネットイース」
――セガを退社し、ネットイースの出資を得て独立した理由は。
セガ本社でグローバル戦略や体制の若返りなど経営体制の見直しがあったのが転機でした。
僕は元々プライドを持ってクリエイターをやってきて、まだまだモノを作りたかった。そして30年やったセガの仕事とは違う目的格を持った仕事をやりたいと思った。それをストレートに実現するなら環境を変えるしかないな、と。
国内メーカーからもお誘い頂いたんですが、行く前から多分やるであろう仕事が見えてしまって。一番鮮度の高い話ができたのは中国企業で、中でも一番情熱を持ち語ったのがネットイースでした。
彼らはすごく冷静に強みや弱みを自己分析して、自分たちには足りない部分がたくさんあると本音を言ってくれる。僕が役に立てるところも多くあると感じたし、僕自身にある程度以上の自由な環境を保証してくれたのです。
――中国のゲームメーカーは日本とどこが違いますか。
まず経営者が若い。CEOはまだ40代半ば。しかも彼らは現役でゲームをすごくたくさん遊んでいて、具体的な製品名を挙げて「これがはやっているのはなぜか、これがどうして面白いか」が語れる。そんな若い経営者が、資金を持ち激しく権限委譲して、大きなお金を圧倒的なスピードで動かす。
日本式に何かを決めるとき、資料を作って会議をして稟議が回って実行、となると1カ月くらいかかりますよね。ネットイースはテレビ会議で「今、困っていることないの」「最近こういうことがあって、こう決めたら楽なんだけど」「じゃあそうしよう」で、1日でモノが決まる。売り上げが伸びているということは、彼らの経営スタイルは間違っていない。
また、経営者とそれ以下の階層で考えることは異なるはずなのに、ネットイースは一気通貫している。僕がそれをとても強く感じる会社の一つが任天堂ですが、ネットイースはさらにそのスピードが速いバージョン、みたいな感じですね。
次ページでは、日本のゲーム業界が抱えるヒト・モノ・カネの構造問題と、そこに迫る「危機」について、長年ヒットシリーズを手掛けてきた名越氏が激白する。