貧国ニッポン#10Photo:SOPA Images/gettyimages

セブン&アイ・ホールディングスの2023年2月期の営業収益が10兆円を突破する見通しだ。国内の流通業で10兆円の大台に乗るのはセブン&アイが初となる。急速に進んだ円安によって、今や大黒柱となった海外コンビニ事業の収益が押し上げられた。実は、同社は数年前にグループ解体につながりかねない危機に直面していた。特集『貧国ニッポン 「弱い円」の呪縛』(全13回)の#10では、セブン&アイが円安による「勝ち組」企業になった分水嶺を明らかにする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)

国内小売り初の売上高10兆円台
米コンビニの巨額買収が転機に

「世界トップクラスのグローバル流通グループを目指していく」。セブン&アイ・ホールディングスが10月6日に開いた2023年2月期の第2四半期決算説明会で、井阪隆一社長はそう強調した。

「世界トップクラス」というのは決して大げさな表現ではない。セブン&アイは同日、23年2月期通期の業績予想を大幅に上方修正した。

 23年2月期の売上高に当たる営業収益は、従来予想から1兆2330億円上方修正した11兆6460億円。連結純利益は前期比25%増の2640億円となる見込みだ。

 セブン&アイは23年2月期第1四半期にも業績見通しを変更しており、2四半期続けて好決算をたたき出している。

 国内の小売業で売上高が10兆円の大台を突破するのはセブン&アイが初となる。宿命のライバルであるイオンですら、成し遂げたことのない前人未到の領域だ。

 好調の主因が、今年急激に進行した円安だ。第2四半期では、通期の為替想定レートを1ドル=127円から131円に変更。円安の影響で円ベースでの売上高や利益が押し上げられた。

 日本のコンビニ業界で圧倒的な強さを誇るセブン-イレブン・ジャパンだが、今やセブン&アイの成長の柱となっているのは海外、中でも北米の7-Eleven(SEI)である。

 通期業績の予想でも営業利益4770億円のうち、6割弱に当たる2636億円を海外コンビニ事業で稼ぐ見込みだ。これは国内コンビニ事業の2303億円を上回る。もはや海外事業の収益が半分を超える。円安が業績にとって強い追い風になるのはこのためだ。

 セブン&アイがグローバル企業に脱皮するきっかけとなったのは、20年8月のこと。米コンビニ大手スピードウェイを210億ドル(当時の為替レートで約2.3兆円)で買収すると発表したのだ。

 巨額M&Aはセブン&アイの米国市場での地位を盤石のものにした。米国で店舗数首位だったSEIが、米3位のスピードウェイをのみ込み、2位以下を大きく引き離すことに成功した。

 乾坤一擲の勝負で、今や、名実共にグローバル企業に変貌を遂げたセブン&アイ。だが、実はスピードウェイ買収と前後して、セブン&アイには創業以来の最大ともいえる危機が突如降って湧いていた。

 次ページでは、セブン&アイのグループ解体につながりかねなかった危機について明らかにするとともに、危機を乗り越えるきっかけとなった“会心”の経営判断について解説する。